レヴィアタン侯爵夫人の教え
今回は見た目がうさんくさいだけの商人だったが、船内には悪質な商人も紛れ込んでいるのだろう。考えただけでくらくらしてしまう。
その後、夕食は一等船室の乗客しか入れないレストランへ向かった。
ここでも、怪しい人物がいないかの調査も兼ねている。
レストランは一つのフロアかと思いきや、個室だった。
さすが一等船室の乗客専用と言うべきか。
客同士が顔を合わせないよう配慮しているのだろう。
個室に向かうまでの廊下ですら、誰とも会わなかった。
調査は頓挫となる。
こうなったら、食事を楽しむしかない。
料理はどれもおいしく、最高の一言。
お腹いっぱい、大満足でレストランをあとにした。
これで一日は終わりではなかったらしい。
ヴィルとレヴィアタン侯爵はこれから賭博場を見に行くという。
「気をつけてくださいね」
「ああ、心配いらない」
なんと言っても、レヴィアタン侯爵が一緒なのだから。
ヴィルはそう言葉を続けた。
できるならば、守護の魔法が付与されたぬいぐるみはヴィルが持ち運ぶほうがいいのだが。
ハラハラしつつ、見送った。
本当ならばついていきたかったものの、賭博場に出入りするのは男性がほとんどだろう。変に注目を集めたら調査どころではないので、留守を守ることが正解なのだ。
ソファに座って待とうとしたら、レヴィアタン侯爵夫人がぽん! と手を叩いた。
「さあ、お風呂にでも入って、疲れを落としましょうか」
「え、でも、まだ帰ってきていませんし」
「あの人達を待っていたら、お風呂に入るのが真夜中になってしまいますよ」
「そ、そうかもしれませんが……」
心配で、それどころではない。
そう訴えると、レヴィアタン侯爵夫人は「わかります」と言ってくれた。
「わたくしも、新婚の頃はそうでしたから」
当時、レヴィアタン侯爵は魔物退治に出かけたり、戦地に赴いたりと、今よりもずっと危険な仕事をしていたという。
今の私よりも、気が気でなかったのだろう。
「心配するあまり眠れなくて、食事もまともに喉を通らなくて……」
けれどもそんなレヴィアタン侯爵夫人を変えたのは、妊娠だったという。
「子どもという存在ができて、夫を心配している場合ではないと思いました」
子どもが生まれてからも、レヴィアタン侯爵が不在の日が少なくなることはないだろう。
「そうなったら、夫が不在の中、子ども達を守るのはわたくししかいない、と気付きました」
留守を守るためには、健康でいないといけない。
これまでのように、少し日差しが強いだけで寝込んでいるような軟弱な体では、子どもを守っていられないのだ。
「それからわたくしはたくさん食べて、しっかり入浴して、たっぷり寝て――」
そういう日々を送っていると、おのずと健康になっていったようだ。
「独自に家を守る方法も思いついたんです」
森の奥地、霧が深くて人が寄りつけないような場所に家を構えたのも、レヴィアタン侯爵夫人のアイデアだったという。
さらに、庭を不気味にして、侵入者をおどかす作戦も思いついたようだ。
「あの庭の装飾は、そんな意味があったのですね」
趣味が半分、実用が半分だと、レヴィアタン侯爵夫人はお茶目な様子で話していた。
「そんなわけですので――わたくしの経験から、これから何をすべきか、わかりますよね?」
「ええ、お風呂に入って、しっかり疲れを落とします」
「正解です!」
レヴィアタン侯爵夫人の言うとおりだと思った。
私がいくら心配していて何も手つかずになっても、意味なんてないのである。
ゆっくりお風呂に入ろう。そう思って浴室へ向かったのだった。




