お買い物
「いかがですかな?」
魔法の付与について説明しないようだ。
もしや知らないのだろうか。
ヴィルも気になったようで、質問を投げかけていた。
「これはどこで入荷した品だろうか?」
「ああ、これは実を言うと借金の形に貰った物で、どこの誰が作ったかはわからないんだ」
どうやら商品についての紹介は、前の持ち主が言っていたことをそのまま伝えただけだったらしい。
価値のわからない者から、価値のわからない者へと引き継がれた、高価な魔技巧品のぬいぐるみだったようだ。
「贈り物にもいいし、遊んでもいいし、どうかな?」
「いくらか聞いてもいいだろうか?」
「うーーーん、そうだねえ」
もう何年も売れないまま、持ち歩いているという。
「ここ最近は金貨三枚で販売していたんだけれど、なかなか売れなくてねえ」
「金貨一枚でどうだ?」
ヴィルは大胆な値切りを提案する。
「金貨二枚だったら……」
「ならばいい。この話はなかったことにしてくれ」
ヴィルがすぐに立ち上がり、去ろうとする。
その様子を見た商人が、慌てて引き留めた。
「ま、待て! わかった! 間を取って、金貨一枚と半金貨にしようではないか!」
「金貨一枚。この値段以外で買うつもりはない」
「ええ~~~~~~!」
ヴィルの意志が固いと思ったのか、商人が折れてくれた。
「わかったよ。持ってけ泥棒、金貨一枚で売ろう」
「感謝する」
「その代わり、この船に良心的な商人がいるって教えてよね」
「約束しよう」
すごい。ヴィルは魔技巧品のぬいぐるみを、たった金貨一枚まで値切った。
ぬいぐるみを受け取ると、ふわふわと手触りがよく、魔技巧品でなくても、かなり造りが丁寧でいい品であることがわかった。
「うちは商店街にも出店しているから、ぜひとも覗いてね。洗練された商品がたくさんあるから!」
言われてふと思い出す。そういえばアイテムが雑多に置かれた、なんだか怪しいお店があったような。
「もしかして、アイテムの森、ですか?」
「そうそう! よく知っていたね!」
「出航前に見かけて」
「気になったんだ!!」
「ええ、まあ」
あまりにも怪しくて……というのは言わないでおこう。
「ぜひとも遊びにきてね」
ここで商人と別れ、部屋に戻る。
レヴィアタン侯爵夫妻はヴィルの交渉術を絶賛していた。
「さすがだったな」
「商人顔負けの値切りでしたわ」
ヴィルにぬいぐるみを渡そうとしたら、首を横に振る。
「それはミシャが携帯しておいてくれ」
「いいのですか?」
「ああ。守護の魔法がかかっているようだから、何かあったときに役立つだろう」
「ありがとうございます」
船内を動き回るときは、このぬいぐるみを相棒にしよう、と心に決めた。




