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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
七部・四章 新たな任務

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パーティー会場にて

 大勢の参加者がダンスに興じているようだった。

 ダンスフロアは薄暗いので、近づかないと顔の判別がつかなかった。そのためツィルド伯爵の姿は確認できない。

 どうしようか。

 怪しい人がいないのであれば、これ以上この場にいる必要はないのだが。

 ヴィルに判断を委ねようとした瞬間、声がかかった。


「お嬢さん、少しいいかな?」


 振り返った先にいたのは色つき眼鏡をかけた、四十代後半くらいの男性。

 無精髭を生やし、燕尾服は少しくたびれていて、若干うさんくさい雰囲気がある。


 もしやルシー・ド・ティナールの知り合いとか?

 だとしたら困る。

 なんて思っていたのだが――。


「ルシーに何か用事だろうか?」


 ヴィルが私を背中に隠すように立ち、間に入ってくれた。


「ああ、いや、ルームーン国からやってきた貴族がいるって聞いたものだから」

「誰から聞いた? 私達はこの船の中に、紹介してもらえるレベルの知人など乗っていなかったはずだが」

「あ~、え~~っと、ははは、誰だったかな?」


 どうやらこの船の個人情報は筒抜けらしい。

 もしかしたらそういう情報の売買が行われている可能性もある。

 ヴィルに問い詰められた男性は、明らかにうろたえた様子でいた。


「言えないのであれば、失礼させていただく」

「いや、待って! 言うから!」


 ただし別室を希望していた。

 ヴィルは船の最上階にある、店はどうかと提案する。


「あそこは、会員制で誰でも入れるところではなかったような?」

「紹介があれば入れる。行くぞ」

「あ、ああ」


 私達が移動を始めると、パーティーに溶け込んでいたレヴィアタン侯爵夫婦も動く。

 階段を使って最上階まで行くと、洗練された品のある酒場バーに行き着いた。

 中からピアノの生演奏が聞こえる。

 ここは昼間は喫茶店カフェで夜は酒場と、営業スタイルが変わるお店のようだ。

 店内はパーティー会場よりも薄暗い。

 天井がガラス張りになっていて、プラネタリウムみたいにきれいな星が楽しめる。

 すてきな雰囲気にうっとりしかけたが、うさんくさい男性が視界に入ってきたので、我に返ることができた。


 ヴィルは私のために、カルーアミルクみたいな甘い酒を頼んでくれた。

 なぜかうさんくさい男性も「私もそれで」なんて同じ物を注文する。

 ヴィルはドライシェリーに似た、渋い感じの酒を頼んでいた。


 カルーアミルクはヴィルがお酒を極力薄めで、と頼んでくれた。

 運ばれてきたのは見た目は完全にコーヒー牛乳である。

 スティック状のチョコレートが刺さっていて、溶かしながら飲むらしい。

 うさんくさい男性は初めて飲んだようで、「えっ、おいし!」と感想を口にしていた。

 ヴィルは酒には手を着けず、本題に移るように促す。


「ああ、そう。実は、いい商品をルームーン国からやってきたお嬢さんへ、特別に紹介しようと思って」


 そんな言葉を聞いて、ヴィルは警戒するように拳をぎゅっと握る。


「このね、ぬいぐるみはいかがかと思って!」


 手品のように何もないところからアタッシュケースを取りだし、パカッと中を開く。

 入っていたのは、くまのぬいぐるみだった。

 大きさは手のひらサイズくらいか。アタッシュケースの大きさのわりには小さなぬいぐるみだった。

 キーホルダーみたいなチェーンもついていて、持ち運べるようになっているようだ。


「職人が丁寧に作った品で、百年は遊べるという売り文句があってね」


 子どもに売るつもりで乗船したようだが子どもが見当たらず、一番若く見えた私に声をかけてきたらしい。


 ヴィルを見たら、大丈夫だと言わんばかりに頷いていた。

 彼は鑑定魔法が付与された眼鏡型の魔技巧品を装着している。

 ただ見ただけで、鑑定結果がわかるのだ。

 問題ないと判断したのだろう。


「触ってもよろしい?」

「もちろん!!」


 私も指輪型の鑑定魔法が付与された魔技巧品を嵌めている。

 手をかざすだけで、鑑定結果がわかるのだ。


 アイテム名:くまの魔法ぬいぐるみ

 状態:庇う、の魔法付与

 説明:お守り魔技巧品。一度だけ、ありとあらゆる厄災から守ってくれる。


 鑑定して調べてみると、とてもいい品だということがわかった。

 うさんくさい男性だったが、売っている品はまっとうなものらしい。

 

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