エルノフィーレ殿下の選択
「それは、なんなのでしょうか?」
エルノフィーレ殿下の問いかけに対し、ホイップ先生は「あなたの寿命を百年寄越すのよ~」と言わんばかりの笑みを浮かべつつ答えた。
「使い魔としての契約を結ぶことなの~」
「契約、ですか?」
「ええ。仮契約でもいいと思うの。そうすればあの子に契約者の魔力が行き渡って、元気になるはずだから~」
通常、幻獣保護区内の幻獣と契約することは禁じられている。
けれども今回のような、命の危機に瀕している場合は、保護を目的に契約することが許されているようだ。
これも、授業でしっかり習ったことである。
「どうするのお? この子を助けるのか、助けないか~?」
エルノフィーレ殿下は顔を上げ、契約者に名乗り出ようとした。
けれども途中で思いとどまるような表情となる。
「どうかしたのかしらあ?」
「いいえ、私が契約してしまったら、ルームーン国に帰るまでの限定的な関係になると思いまして。他の誰かと契約したほうがいいのかと」
「それはできないわあ。魔法学校の生徒が契約できる使い魔は、一体のみですもの~」
「そう、だったのですね。では、ホイップ先生は?」
「ごめんなさいねえ。私は人里で暮らすエルフ族の規律があって、新たに使い魔と契約することはできないのよお」
つまり今、ここでヘッジホッグの仔と契約できるのは、エルノフィーレ殿下だけなのである。
「早くしないと、この子の生命力が保たないわよお」
「わ、わかりました、私が契約します!」
「そうこなくっちゃ!」
使い魔の契約には三種類あるという。
一つは名付けをもって関係を成立させるもの。
一つは魔力で強制的に従わせるもの。
一つは契約対象が望んで関係を結ぶもの。
「この子は意識がないから名付けを受け入れたり、望んで契約を持ちかけたりすることはできないと思うのよお」
「となれば、残るは強制的に契約を取る方法ですね」
「そうねえ」
「方法を教えていただけますか?」
「簡単よお。血を使えばいいの~」
通常であれば血を用いて魔法陣を作り、契約を成立させるもののようだ。
「この子は衰弱しているから、血を舐めさせて契約の呪文を唱えるだけで大丈夫だと思うの」
「わかりました」
エルノフィーレ殿下は採取用のナイフを取りだすと、躊躇うことなく指に押し当てる。
そして、契約の呪文を唱えた。
「――我に従え、幻獣ヘッジホッグよ!」
ヘッジホッグの口に血を押し当てると、ぺろりと舐めた。
魔法陣が浮かび上がり、空中で弾ける。
無事、契約は結ばれたようだ。
ヘッジホッグはハッと目覚めたかと思えば、元気よく立ち上がる。
心配そうに覗き込むエルノフィーレ殿下のもとへやってきたようだ。
「あなた、大丈夫ですか?」
エルノフィーレ殿下の問いかけに答えるように、ヘッジホッグは『プププ!』と鳴いた。
そっと手を差し伸べると、ごろんと転がるようにしてエルノフィーレ殿下の手のひらに飛び乗る。
「名前を付けてあげないと~」
「少し、考えておきます」
「ええ、それがいいわねえ」
無事、契約は完了し、ヘッジホッグの命を助けることができたようだ。




