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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
七部・三章 幻獣保護区でのひと騒動

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出発!

 クラス全員に、魔法巻物が配られる。


「これは宿泊施設へ転移する魔法巻物よお。集合時間に間に合わないときや、幻獣とのトラブルが発生したときに、使うものなの~」


 さらにホイップ先生は魔法の杖を用いて、光る物体を召喚した。

 光る物体にはトンボのはねみたいなものが生えていて、各班に一匹ずつ付いて回る。


「その光る妖精達は、先生といつでも連絡できるようにしてくれる子よお」


 さらに幻獣保護区内で生徒達がいらぬことをしないよう、監視する役割もあるようだ。


「つまり、ずるをして転移の魔法巻物を使って宿泊施設へ行ったらわかるようになっているの~。真面目に歩きなさいねえ」


 なんでも学年にひと班は、幻獣に追いかけられたという虚偽の報告をし、宿泊施設に転移してくる者達がいるようだ。


「そういう報告があると、幻獣保護区の人達は数日かけて調査しなくてはいけなくなるのよお。迷惑になるから、絶対にしないでねえ」


 もしもきつくて歩けない場合は、ホイップ先生に連絡するようにと言ってくれた。


「そういうときは、先生特製の、元気になる魔法薬を飲ませてあげるからねえ」


 ホイップ先生はにっこり微笑みながら、ボコボコ音が鳴り、煙を漂わせる魔法薬を見せてくれた。

 あんなまずそうな魔法薬を飲むくらいだったら、自力でゴールしたい。

 皆で目配せし、最後まで頑張ろうと心の中で誓い合った。


「では、出発しましょう~!」


 五分間隔で各班は出発するようだ。

 私達は五番目だった。


「〝にゃんこ大好き班〟の出発時間ねえ。どうか気をつけるのよお」

「はい」


 鋳鉄製のゲートがギギギと音を立てて開いた。

 目の前に広がるのは、木と木と木――森である。

 幻獣保護区はさまざまな環境が同時に存在するという不思議な場所らしい。

 地図によるとこの辺りは普通の森だが、少し進んだ先は湿地帯となっているようだ。

 リーダーであるレナ殿下が地図を読み、誘導してくれる。


「湿地帯は体力を奪うだろうから、早めに通過しておきたいな」

「そうね」


 行者遠足では、寝泊まりに必要な荷物は事前に宿泊施設に送られているが、それ以外の水筒や軽食などは自分で鞄に詰めて持ち歩くようになっている。

 幻獣を酩酊させるという、またたび薬草もしっかり携帯していた。

 使い魔の存在は幻獣を刺激してしまう可能性があるため、傍に置かないように言われている。

 そのためジェムは私の周囲をうろつかずに、鞄の中で小さくなって眠っていた。いいご身分だこと、と思ってしまう。

 エルノフィーレ殿下も鞄を提げ、しっかりとした足取りで歩いている。

 ルームーン国に帰らないという決意をされたと聞いたが、様子はいつもと変わらない。

 もしかしたら以前から、覚悟していたことだったのだろう。

 そんなエルノフィーレ殿下が、樹上を見上げ指差す。

 白いリスが木から木へ飛び移っているところだった。 


「あれは――」

「〝じゅリス〟、という幻獣かと」


 皆、騒がないようにしつつ、樹リスの様子を観察する。

 木の実をちぎって、器用にカリコリと食べているようだった。

 なんてかわいいのか。

 と、見とれている私達だったが、エアだけが違う方向を見つめていた。


「ねえ、エア、どうかしたの?」

「いや、なんか一瞬、別の方向から視線を感じたような気がして」

「視線?」


 他の幻獣か、クラスメイトかと聞いたら違うという。


「なんかじっとりした眼差しだったような」


 その方向を見た瞬間には、いなくなっていたという。


「もしかして、マリウス・フォン・リヒテンベルガーが化けて出てきたとか!?」

「まさか!」

「だよな」


 きっと見間違いだろう。エアはそう言って、それ以上話をしなかった。

 

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