ヴィルからの報告
「ミシャ、よかった。話したいことがある」
「は、はあ」
教室と廊下から人々の注目を集めつつ、静かな場所へと移動する。
急ぎの用事なのか、ヴィルは私を学校の最上階にあるレストランへ連れて行った。
好きな物を頼んでいいというので、季節限定のミモザケーキと紅茶を頼んだ。
「なんだ、ミモザケーキというのは」
「バタークリームを塗ったケーキに、黄色いふわふわしたクラムを散らしたかわいいスイーツなんですよ」
「初めて知った」
「食べてみますか?」
「いや、ミシャが食べているのを見て味わおう」
なんだその斬新極まりない味わい方は。食べていないのにどうやって味を感じるというのか。怒濤の突っ込みが浮かんだものの、いちいち指摘していたらキリがないので聞かなかったことにしよう。
ミモザケーキが運ばれてくる。
甘いスポンジを千切って作るクラムはふわふわで、ほんのりサフランの香りを感じた。
バタークリームの上品なコクと、きめ細やかなケーキの相性はすばらしいもので、あっという間に平らげてしまった。
「なるほど、ミモザケーキとはそういうケーキだったのか」
「そうなんです。食べなくてもよかったのですか?」
「ああ、ミシャが食べている様子を見るだけで満足した」
他人が食べているだけで満足できるなんて、羨ましいにもほどがある。
私だったら、絶対に食べたくなるのに。
と、そんなことは差し置いて。
本題へ移ってもらおう。
「それで、どうしたのですか?」
三学年の生徒は三学期は就職活動や進学準備などでほぼほぼ登校しないと聞いている。
わざわざやってきたということは、何かあったに違いない。
「ジルヴィード・ド・サーベルトから接触があった」
「やっとですか」
「ああ」
私達は先日、ツィルド伯爵の仮面舞踏会にジルヴィードを探しに行ったものの、見つけ出すことはできなかった。
代わりに、ヴィルをジルヴィードと勘違いした外交官セイン・ローダーから、彼の入国査証の延長許可証を受け取っていたのである。
国内でやることがあるジルヴィードは、〝側近のヴィルに渡してしまった〟と聞いて、大慌てで接触してくるはず。
そんな目論みがあったが、まんまと引っかかったらしい。
「今晩、レヴィアタン侯爵の屋敷に呼びだしていたんだが、直前になってどうしてかミシャの同席を望んできた」
「なぜ、私を?」
「わからない」
ヴィルやレヴィアタン侯爵だけでは気まずいので、緩衝材として私の参加を望んだ可能性がありそうだが。
「正直、拒否したかったのだが、もう時間がない」
なんでもあと三日で、ジルヴィードの国内滞在の許可が切れるらしい。
無断滞在が明らかになれば、ルームーン国に強制送還されるという。
「そうなれば、奴はこの先数年、我が国に入国できなくなる」
ジルヴィードにはルドルフが所持していた黒い宝石の解析をしてもらわないといけないのだ。
「わかりました。では、私も同席しましょう」
「すまない」
「いえいえ」
すでに外出許可は取っているようで、そのまま向かっても問題ないという。
ヴィルの使い魔である聖竜、セイグリットに乗って移動することとなった。




