ホイップ先生の授業
幻獣保護区への行者遠足を意識した授業は続く。
次はホイップ先生が教える、幻獣保護区に自生する植物についての授業だった。
「うふふ、こうして皆の前で授業をするのは、なんだか不思議な気分ねえ」
担任として毎日ホームルームをしていたものの、こうして授業をする姿は新鮮だ。
ホイップ先生も同様に思っているのだろう。
「幻獣保護区に行くのよねえ。あそこはいいわよ~」
ホイップ先生は久しぶりにクラスを受け持ったようだが、その理由の一つが幻獣保護区に行けるからだったという。
「幻獣保護区はねえ、本当に関係者しか立ち入りが許可されていないのよお」
今後、二度と行けないかもしれない。そのため、目にするものすべてを記憶しておくように、とホイップ先生は話してくれた。
「まず、あなた達に教えたいのは、幻獣は知性があって、大人しい生き物だとはいえ、安全であるとは限らない、ということなのよ~」
幻獣の健康状態、機嫌によっては牙を剥く可能性もある、ということ。
歴史上、幻獣が人を襲った記録はないようだが、だからといって安心はできないという。
「人間も同じでしょう~? お腹がすご~く痛い日に、周囲をうろつかれてうるさくされたら、優しくできないでしょう~?」
ホイップ先生の言うとおりである。
いかなるときも、幻獣を刺激しないように、静かに滞在しないといけない。
「もしも幻獣を怒らせてしまったら~? というときのために、教えたい薬草があるのよ~」
それは〝またたび薬草〟と呼ばれるもので、幻獣が嗅ぐと酩酊状態になるという。
「これが実物よお」
ホイップ先生はまたたび薬草の束をみんなに配って回った。
そういえば先月、ガーデン・プラントで種まきをして育てたな、と思い出す。この授業で使うために栽培していたようだ。
昨晩、チンチラ達がせっせと刈り取っていたのも、これだったのだろう。
「配ったまたたび薬草は、しばって風通しのいい場所で乾燥させておくのよお」
行者遠足の日に持っていけば、幻獣とのトラブルのさいに使えるという。
「幻獣保護区内にもまたたび薬草があるから、忘れてしまったときは見つけ次第摘んでおくといいわ~」
ひとまずまたたび薬草を紐で縛り、鞄に結んでぶら下げておこう。
「続いては、幻獣保護区にある危険な植物について説明するわねえ」
ホイップ先生は嬉々とした様子で、毒草について語り始める。
「幻獣保護区でもっとも多く見られるのは、触れるだけで重度の火傷を負う火炎キノコねえ。これは見た目が真っ赤で、明らかに危ないとわかるものなんだけれど~」
火属性の幻獣の食料なので、豊富に自生しているという。
「他には、目に見えない無数の毒針がある針山草とか、触れたら毒の粉をまき散らす煙草とか、毒虫が集まる毒臭花とか、本当にいろいろあるのよお」
見ず知らずの植物には近づかない、触れない。
それが大事だという。
ホイップ先生の授業はどれも為になりそうだ。
◇◇◇
一日の授業を終え、帰ろうかと廊下を見たら廊下が騒がしいことに気付く。
誰かやってきたのかと視線を向けてみると、その先にヴィルがいた。
どうやら私を迎えにきてくれたらしい。




