幻獣についてその②
そんな稀少な幻獣が暮らす保護区はなぜ存在するのか、という話になった。
「かねてより珍しく、存在するのかも疑われるような幻獣は、使い魔として従えているだけで人々の羨望を一身に受けた」
そんな状況の中、貴族の間で愛玩動物ブームが巻き起こる。
通常であれば、犬や猫、兎などを飼育するのだが、ある日幻獣をペットとして自慢する者が現れたらしい。
その幻獣は偶然、領地で遭遇し、捕獲したものだったという。
「その幻獣は生まれたばかりの頃に親とはぐれ、保護した者が親代わりに世話をしていたようだ」
そのためよく懐き、愛らしい姿を振りまいていたという。
「それが、社交界によくない流れを生んでしまった」
以降、幻獣をペットとして飼いたいと望む貴族が続出し、ギルドには幻獣を捕獲する依頼が殺到したという。
「冒険者が幻獣を乱獲するような事態が発生した」
比較的数が多く、王都近郊の森でも姿を目にすることがある幻獣〝青い鳥〟は、当時の乱獲で絶滅の危機に陥ったようだ。
「幻獣の研究者が警鐘を鳴らすも、貴族達は聞き入れず――」
困り果てた研究者は、異国の幻獣の専門家を呼び寄せ、どうにかならないかと相談を持ちかけたらしい。
「やってきた異国の幻獣の専門家、マリウス・フォン・リヒテンベルガーは、驚くべき対策に出たという」
それは乱獲する人々と同じ勢いで、幻獣を保護したようだ。
「さらに国の一角に、幻獣保護区を作るよう指示を出した」
幻獣達は生態系の保全を理由に保護区に集められ、危害が及ばないようにしたという。
「さらにマリウス・フォン・リヒテンベルガーは飼育下にある幻獣も調査し、正しい世話ができていないようであれば、その場で保護したようだ」
話を聞いていれば慈愛に満ちた人物のように思えるのだが、当の本人は幻獣が関わると我を忘れるほど危険な人物だったという。
前世の偉人、ナイチンゲールもそうだったな、とふと思い出す。
子ども時代に受けた印象は心優しい天使、という感じだった。
けれども大人になって知ったナイチンゲールは強い意志のもと、患者と共に生きるために奮闘する、剣を持たない戦士というイメージだった。
マリウス・フォン・リヒテンベルガーも同様の人物だったのだろう。
ただそれくらいしないと、幻獣に対する人々の意識というものは覆らなかったに違いない。
「マリウス・フォン・リヒテンベルガーの活躍もあり、幻獣は絶滅せずに現在に至る」
今でも弱った幻獣を発見したら保護され、幻獣保護区に移送されるという。
「役所には幻獣保護課と呼ばれる区分が存在し、通報があれば現地に飛んで向かうようだ」
これも、マリウス・フォン・リヒテンベルガーが提唱し、作られた組織だという。
「我が国でも偉大な功績を残したマリウス・フォン・リヒテンベルガーは、幻獣をないがしろにする者が現れたら、今でも化けて出ると言われている」
マリウス・フォン・リヒテンベルガーは優秀な魔法使いでもあったらしく、場合によっては呪われるので、幻獣は大事にするように、と先生は真面目な顔で語っていた。
ここで、授業の終了を告げる鐘が鳴る。
休み時間になると、エアが話しかけてきた。
「なんか幻獣についていろいろ話を聞いたはずなのに、マリウス・フォン・リヒテンベルガーのことしか記憶にない」
「私もよ」
マリウス・フォン・リヒテンベルガーが怖いので、幻獣は大事にしよう。
それを伝えるための授業だったのかもしれない。




