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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
七部・一章 新学期を迎える前に

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ビリヤード対決!

 ビリヤードなんてやったことはない。

 前世で何度か、深夜に放送していた大会をぼんやり眺めるばかりだった。


「ルールはどうしますか? 特別に、あなたが決めていいですよ」


 アンスガー・フォン・フィーリッツはにやり、と笑みを浮かべながら聞いてくる。

 まるで私がビリヤードをできないことを見抜いているかのようだった。


「あの、ヴィル先輩、ビリヤードのルールを存じないのですが、いくつかあるものなのですか?」


 ヴィルはこくりと頷く。

 アンスガー・フォン・フィーリッツの言葉からそう察したのだが、間違いないようだ。


「ひとつは十五個のボールを落としていって、玉の数字が点数となり、先に六十一点を取ったほうが勝ち。もうひとつは番号順に落としていき、最後に八の数字が書かれた球を最後に落とした者が勝ち。こちらはショットのさいどの穴に落とすか宣言するのが特徴だ。他に球数が九つで行うものもある」


 基本的に、ミスをしたら打順を交代するようだ。

 十五個のボールを落とすほうが簡単そうに聞こえるが、相手側に先制を取られたらそのまま負けてしまいそうだ。

 かと言って、ボールを落とす穴を宣言し、実際に落とす芸当なんてできるわけもない。

 どちらのルールでするにしろ、勝つことはできないのではないか。

 なんて思いつつも、まだ十五個ルールのほうが希望があるような気がした。


「ちなみに打順はどのようにして決めるのですか?」

「バンキングといって、手玉を同時に打って台の縁に当てて、戻ってきた位置が近いほうが先制を取るというものがあるが」


 これは公式ルールで行うもので、遊びで行う場合はシンプルなコイントスが行われるという。

 アンスガー・フォン・フィーリッツは余裕綽々よゆうしゃくしゃくな様子で、打順決めも私が決めていいと言ってくれた。


「でしたら、コイントスのほうで」

「わかりました」


 バンキングも上手くできる気がしないので、コイントス一択である。

 どうか上手くできますように、と祈る他ない。


 早速開始する。

 ヴィルがコインを指先で弾くと、高く飛んだ。

 表か裏か、同時に宣言する。


「僕は裏にします」

「私は表!」


 コインを掴んだ手を離すと、表だった。


「ミシャが先制だ」


 ホッと胸をなで下ろす。

 玉を十五個並べ、手玉を打って十五番と書かれた玉に当てて的玉を散らすらしい。

 よく見るやつか、と思いつつやってみる。

 キューと呼ばれるビリヤードの棒を持ち、手玉を狙って突き出す。

 カーン! といい音がしたものの、私の玉は十五番の玉の横を通り過ぎ、勢いよく穴へ落ちていった。


 いたたまれない空気になる中、アンスガー・フォン・フィーリッツがぷっと噴き出して笑った。


「交代ですね」


 アンスガー・フォン・フィーリッツはキューを構え、迷う様子など見せることなく手玉を打った。

 すると十五番の玉に当たり、的玉が散り散りとなる。

 一打目だったが、玉が三つも落ちたようだ。


「十番と九番と、十二番――三十一点ですね」


 すでに勝利まで半分の数を得たようだ。

 ミスをしていないので、当然ながら次も打てる。


「さて、次は十四でも狙いましょうか」


 アンスガー・フォン・フィーリッツは狙いを定め、手玉を打った。

 しかしながら、十四番の的玉に当たる前に、手玉が弧を描き、何もない方向へ転がっていった。


「なっ、どうして!? そんなわけないのに!!」


 たった一打外しただけなのに、動転していた。

 そんなに自信があったのだろうか?


「次はミシャだ」

「はい!」


 呆然とするアンスガー・フォン・フィーリッツを避け、新たに設置された手玉をめがけてキューを突き出す。

 狙うのは、落としやすそうな位置にある八番の玉だ。

 思い切って打ったところ、八番から少し逸れた軌道に思えた。

 しかしながら途中で玉の進行が修正されたのか、見事に的中。

 八番の玉は十二番の玉も弾いて穴に落ちていった。


「ありえない!! デタラメです!!」

「どこがだ?」


 ヴィルが具体的な説明を求めるも、アンスガー・フォン・フィーリッツは「ぐぬぬ」と言うばかりだった。

 その後、私は三つの玉を落とすという奇跡のようなプレーが続いた。

 あっという間に合計六十一点を獲得する。

 驚いた。私にビリヤードの才能があったなんて。

 なんて思っているのは私だけだったようだ。


「やはりありえない!! インチキに決まっています!!」

「先ほども言ったが、そのインチキを証明してくれ」

「だって、彼女は初心者なのに、ここまで上手くできるわけがないでしょうが!」

「ビギナーズラックというものなのだろう」

「納得できません」


 憤るアンスガー・フォン・フィーリッツにヴィルは接近し、彼のキューを手に取ってじっと見つめる。


「インチキというのは、貴殿が持つこのキューのようなものではないのか?」

「え?」

「このキューには魔法が付与されている。上手く玉を操れるようなものが」


 アンスガー・フォン・フィーリッツは顔色を悪くさせ、ヴィルからキューを奪い取った。


「うちの勝ちでいいだろうか?」


 彼は返事をせずにツィルド伯爵の夜会の招待状をビリヤード台に叩きつけた。

 そのまま無言で走り去ってしまう。


「目的達成だ」

「そう、ですね」


 と、ここでビリヤード台の玉と目が合う。

 パチパチと瞬きしていたので、ハッと気付いた。


「え、もしかしてジェムですか!?」


 そうだ! とばかりにチカッと輝く。


「手玉は、ジェムが変化したものだったのですね」

「まあ、途中からな」


 アンスガー・フォン・フィーリッツの魔法を妨害した上に、私が有利になるようなゲームの流れを誘導していたらしい。


「インチキにはインチキで応じる。これでフェアだろう」


 果たしてそれはフェアと言えるものなのか。

 何はともあれ、招待状を入手できたのだった。

 

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