魔法百貨店へ!
エアが魔法百貨店のカードに刻まれた呪文を摩ると、転移の魔法陣が床に浮かび上がった。
「ここに乗って魔法を発動させたら、自動で転移するらしい」
「行きましょう」
「ああ!」
エアと私、アリーセとノアが魔法陣に乗ると、一瞬で場所が入れ替わる。
下り立った先は夜のウユニ塩湖みたいと言うべきか。星々が散らばる宇宙空間のような場所だった。
「エア・バーレ様とご友人方様、いらっしゃいませ!」
私達を出迎えたのは、すらりと背が高い男性のエルフ。
燕尾服を着ていて、恭しい様子で出迎えてくれた。
エルフ族なので年齢不明だが、見た目は二十代半ばくらいの青年である。
「ここが魔法百貨店なのか?」
「はい、左様でございます」
「へーーー!」
果てしない星が見えるばかりで、商品らしき物は一つもない。
エアがキョロキョロと見ていたら、疑問を察したエルフの店員が説明してくれた。
「星はお店の数にございます。必要なお品を言っていただけたら、売り場にご案内いたします」
「うわっ、そうだったんだ! すごいな!」
パジャマパーティーのナイトドレスを選びにきたというと、エルフの店員は「こちらですね」と言って一つの星を手で示す。
すると魔法陣が浮かび上がり、そこから扉が現れた。
カードが入店の鍵となっているらしい。エアが扉へかざすと、パチンと音を立てて封印の魔法陣が解かれる。
エルフの店員が扉を開いてくれた。
「いらっしゃいませ!!」
出迎えてくれたのは、ドワーフ族の女性。
「パジャマ専門店へようこそ!」
店内は広く、衣装部屋のような空間にたくさんのパジャマがかけられていた。
「当店のパジャマは魔法の糸で作られておりまして、袖を通したらその人が快適な大きさに変化するという特徴がございます」
サイズが合わないから、と諦めなくてもいいようだ。
「思っていた以上にあるな。俺、選べるかな?」
「僕が特別に選んであげよう」
「いいのか?」
「ああ」
エアのパジャマはノアが選んでくれるという。
「私も選べるかしら?」
「ミシャのパジャマはわたくしが選んであげますわ!」
「アリーセ、ありがとう!」
ナイトドレスが陳列された場所にいくと、百着以上はありそうだった。
そのまま眠ることもできるからか、胸元が大きく開いている物が多い。
「かわいいけれど、露出度が高すぎるのはちょっと……」
「でしたら、ナイトガウンを合わせたら問題ありませんわ」
ナイトガウンというのは、パジャマやナイトドレスの上に羽織る上着のことらしい。
やわらかなガーゼ生地の他、着心地のいい綿や絹、レース生地で作られた物など、さまざまな種類があるようだ。
「こちらの袖がないナイトドレスに、首元からすっぽり覆うレースのナイトガウンを合わせるのはいかが?」
「すっごくかわいい!!」
てるてる坊主みたいなレース仕立てのナイトガウンだが、アリーセが選んでくれたナイトドレスを合わせるととてもかわいかった。
さすが、最先端の品物に触れて育ったご令嬢である。センスがよかった。
「これにするわ」
早くも私のナイトドレスが決定する。
心配なのは値段だった。ハラハラしながらドワーフ族の店員に聞いてみると、「お代はミュラー男爵よりいただいております」という返答が返ってきた。
「いいのかしら?」
「いいのでは?」
なんでも魔法百貨店の買い物は、すべてミュラー男爵の奢りだという。
申し訳ない気持ちになったものの、たまにはお言葉に甘えてみるのもいいのだろう。
「ミシャ、わたくしのナイトドレスも選んでくれますか?」
「私が!? センスないけれど、いいの?」
「ぜひ!」
そう言ってくれるのは光栄だが、果たしてアリーセのお眼鏡にかなうようなナイトドレスを選ぶことはできるのか。
なんて思っていたら、アリーセにお似合いの一着を発見してしまう。
それは、猫の刺繍が胸に施されたナイトドレスだった。
「アリーセ、これはどう?」
「まあ、なんてかわいらしい!! 最高です!!」
猫がアリーセの使い魔のキティにそっくりだったため、即決となった。
お気に召していただけて何よりである。




