叔父の確保へ③
向かった先は私とヘルタが夕食を食べた、ミュラー商店が経営するレストランである。
通常、この時間帯は営業していないようだが、叔父を捕獲する作戦を実行するために開けておいたのだとか。
叔父は馬車から降りるなり、上機嫌で「いい店だな」なんて言っていた。
「今日はたくさん飲んで、食べてくれ」
「もちろん、そのつもりだ」
叔父はこのあと捕まるとは夢にも思わず、ウエイトレスの誘導に従って歩いていた。
なんの疑問も持たずに、地下へ繋がる階段に下りる。
「こちらへどうぞ」
「ああ、ご苦労!」
偉そうにそんなことを言って個室へ入ったので、すぐさまウエイトレスが扉を閉める。
そのあと、しっかり施錠された。
「お、おい、どうして――鍵、閉まっているじゃないか!!」
叔父は閉じ込められたのに気付いて、扉をどんどん叩いていた。
地下へ連れていかれた時点で、異変に気付くかもしれない。
そう思っていたが、まったく問題なかった。
ネズミ取りに引っかかった野ネズミのように、あっさり捕獲に成功する。
ここはミュラー商店に盾突く者を監禁するために作られた地下空間らしい。
内部の様子はマジックミラーのような窓から確認できるという。
ヘルタの協力はここまでである。
ミュラー男爵の部下が宿に送ってくれるようなので、彼女の身柄は任せておこう。
「ヘルタ、ありがとう」
「無事、成功してよかった」
「ええ。もう大丈夫だから、今日はゆっくり休んで」
ヘルタは安堵の表情を浮かべ、宿へ帰っていった。
一方、叔父はしばらく扉を叩いて壊そうとしていたが、頑丈な金属製の扉なのでびくともしなかった。
手が痛くなったのか即座に叩くのを諦め、ヘルタの名を叫ぶも、答えるわけがなく……。
途中で喉の渇きを覚えたのか、テーブルの上に置かれていた酒を一気に飲み干す。
二本目に手を伸ばす前に、ミュラー男爵が声をかける。
なんでも窓に触れると中に声を届けることができるらしい。
「ガイ・フォン・リチュオル、聞きたいことがあります」
「うわっ、なんだ、どこにいる?」
「あなたの脳内に直接語りかけています」
「な、なんだと!?」
ミュラー男爵も冗談なんか言うんだ、と思ったものの、深刻な状況なだけに笑うことはできなかった。
「あなたは騎士隊に拘束されたはずですが、どうやって抜け出してきたのですか?」
「そんなの知るか――〝それは、ツィルド伯爵の名を出したら、簡単に釈放されて……〟」
叔父はすらすらと答える。
実を言えば、先ほど叔父が飲んだ酒に自白剤が入っていたのだ。
効果抜群だったようで、ミュラー男爵の問いかけにあっさり答える。
それはそうと、騎士隊からの逃走にツィルド伯爵が関わっていたとは。その可能性があると考えてはいたものの、実際に本人から聞いて呆れた気持ちになる。
「ツィルド伯爵に、保護を求めなかったのですか?」
「〝ああ。もう庇いきれないって言われてしまって……〟」
さすがのツィルド伯爵も、今回叔父のやったことを正当化し、このまま傍に置くことはできなかったようだ。
「そもそも、ミュラー男爵の名を騙ってしていた商売は、あなたのアイデアだったのですか?」
「〝いいや、違う。ツィルド伯爵が、がっぽり儲けることができると、紹介してくれた……〟」
ミュラー男爵の名を騙って行っていたネズミ講のような犯罪行為は、ツィルド伯爵の斡旋のもとで行っていたものだったらしい。
利益の四割を受け取っていたという。
自分の手を汚さず、他人に犯罪行為を働かせるなんて、狡猾な男である。
「他、彼に聞きたいことはありますか?」
すぐさま挙手する。
魔法学校への入学前に、叔父はレナ殿下を誘拐した。
それについて、ずっと聞きたいと思っていたのだ。
「レナハルト殿下の誘拐について聞きたいの! あれは誰の命令で――」
「ぐう!」
あろうことか、叔父は立ったまま眠っていた。




