叔父の確保へ②
見つけた!!
叔父は勝手知ったる我が家のように、ドアをガチャガチャ鳴らして中へと入ろうとしている。
「んん? 鍵がかかっているな。灯りも点いていないし、まさかもう寝ていがやるのか?」
叔父はどんどん! と扉を叩いて「ヘルタ!!」と叫んでいる。
その扉の叩き方はトイレに誰か入っているか確認するものだ――と、そんなことはさておいて。
ヘルタの肩を叩いて合図を出す。すると彼女は頷き、玄関のほうへ回って叔父へ声をかけた。
「あんた、お帰り」
「うわ!! ヘルタか!! いきなり現れるからびっくりした!!」
暗闇の中、無理矢理叔父を捕まえることもできたがしなかった。
というのも叔父は魔法学校出身で魔法が使えるので、どう出るかわからないため、ヴィルが考えたおびき寄せる作戦に出たのだ。
「こんな夜遅くに、どうしたんだ?」
「あんたがこの前話していた、花街の仕事をしに出かけていたんだよ」
「そうだったのか! いや、大変だったな」
婚約者に花街での仕事を斡旋するなんて、どんな外道だ、と思ってしまう。
「お金がたくさん入ったから、今日はどこかいいところに食事に行かないか?」
「おお、いいな! いったいどれくらい稼げたんだ?」
「金貨三枚ってところかな」
「おお……すごいな」
ヘルタが革袋を取りだし、中に金貨があると示すためにカチャカチャと音を鳴らす。
叔父は実に悪どい笑みを浮かべつつ、よくやったと声をかけていた。暗闇で見えないと思って、あんな顔をしているに違いない。
暗視の魔法をかけたヘルタに見えているとは、夢にも思っていないのだろう。
「少しめかしてくるから、ここで待っていてくれないか?」
「めかす?」
「ああ。いい店に行くんだ。おしゃれくらいしないと」
「そのままでも十分きれいなんだが」
「これは仕事着なんだ。少しここで待っていてくれよ」
「わかったよ」
強引に出発したらどうしようかと思っていたが、叔父は待てを命じられた犬のごとく、外で待機し始める。
その間、ヘルタは家に戻り、最低限必要な物を持ち出す。
叔父には姿が見えない状態の私とジェムが同行する。
「急がないと!」
ヘルタがどかどかと足音を立てつつ、自らの部屋へ駆け込む。
「静かにしなくて大丈夫? お父さん、起きない?」
「ああ、一度寝てしまったら、大きな物音を立てても起きないんだ」
一応、ミュラー男爵がヘルタのお父さんを見張っているので、目覚めるようなことがあったら声をかけてくれるだろう。
ヘルタがまず、しゃがみ込んで床板を剥がす。そこにあったのは、母親の形見だというサテンのリボンだった。これだけは奪われないよう、日替わりで隠す場所を変えて死守していたらしい。
あとはワンピースなどの服を数着、まとめてジェムに預ける。
「これで大丈夫」
「もういいの?」
「ああ。あとはガラクタばかりだ」
「そう」
服は着替えずにそのまま出て行ったが、叔父は変化がないことに気付いていないようで、「きれいだ」なんて適当なことを言っていた。
「大通りに馬車を待たせているんだ。そこまで歩こう」
「おお、準備がいいな」
「任せてくれ」
ヘルタは上手く叔父を誘導していた。
暗闇の中進んで行き、ミュラー商店の馬車へ乗り込む。
叔父は姿消しの魔法がかかった私達があとに続いたことも知らず、「いい馬車だな」なんてのんきに話していた。
御者が扉を閉め、ガチャンとしっかり施錠する。
「ん、今、鍵を閉めたのか?」
「この辺りは物騒だからねえ」
「まあ、たしかに」
馬車は走り始める。
無事、叔父を連れ出すことに成功した。




