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ヘルタの婚約者

「えっ、あの人、ミシャの叔父さんだったの!?」

「まだわからないけれど……」


 叔父はその辺によくいる典型的なおじさん、という人相である。

 けれどもリチュオルに遺伝する雪のような髪色というのは珍しいだろう。


「髪色は私に似た感じ?」

「ああ。銀髪だって自慢していたんだ」


 どこが銀髪だ、と抗議したくなる。

 もともとの髪が白髪しらがになっているだけだろう。


「名前を聞いてもいい?」


 さすがに偽名を名乗っているだろうと思っていたが――。


「ガイ・フォン・リチュオルっていうんだ」

「間違いなく、叔父さんだわ」


 まさかヘルタみたいな若い娘にちょっかいをかけて、婚約者を名乗っていたなんて。

 だんだん頭が痛くなってきた。


「どこでどう出会ったの?」

「下町で倒れているところを発見してね」


 王都からやってきた叔父は、途中で路銀がなくなり、歩いてやってきたという。

 森には魔物も出没するというのにバーチにたどり着くなんて、倒れていたとはいえ悪運が強い人である。


「ケガはないけれど、お腹が空いているっていうから、家に連れ帰ったんだ」

「そんな不審者、よく相手にしたわね」

「ああ。話を聞いていたら貴族のご当主様で、礼金はあとで渡すって言っていたからさ」

「リチュオル家が貴族であることは本当だけれど、叔父さんは次男だから当主じゃないの」

「やっぱり、そうだったんだね」


 ヘルタは叔父の言うことを信じる素振りを見せつつも、心のどこかでは疑っていたのだろう。

 叔父は出会ったときから今日まで、口先だけの最低男だったようだ。


「彼と過ごすうちに、結婚を申し込まれて……」


 下町の家を出て二人で暮らそうと言われ、ヘルタは舞い上がり、了承してしまったようだ。


「でも、いつまで経っても具体的な話をしないからさ」


 本当に叔父は酷い男である。

 それにしても、叔父の行動力が恐ろしい。

 ミュラー男爵に成り代わって商売し、騎士隊に拘束され、その後逃走。

 バーチに行き着き、ヘルタの家に寄生して結婚を申し込むなんて。

 短期間でやり遂げることができるのは、叔父くらいだろう。

 叔父は顔がいいわけでも、性格がいいわけでもないのに、なぜか女性にモテていた。

 あのだらしない感じが、女性の母性本能を呼び起こすのだろうか。

 その辺は永遠に理解できないだろう。


「叔父が迷惑をかけていたみたいで、ごめんなさい」

「いいんだ。少しの間でも、夢をみることができたから」


 彼女のような頑張り屋さんを騙していたなんて、絶対に許せない。

 ラウライフに連れ戻して、冬が終わるまで野外生活をして穢れた身を清めてほしい。

 そんな過激な思考に陥ってしまう。


「実は、叔父は王都で罪を犯していて、この街に身を隠していたの」

「なっ――そうだったのか」


 それとなく腑に落ちるような物言いをする。


「何か心当たりがあったの?」

「いや、巡回する騎士サマを警戒するような挙動を何度か見たことがあったから、何かやらかしているんじゃないかって思ってさ」


 聞いても「なんでもない」と言っていたようだが、内心ヘルタは疑っていたという。


「よく見放さなかったわね」

「ああ。そんな男でも、あたしの希望だったからさ」


 叔父はなんて罪深いことをしてくれたのか。

 なんとしても捕まえて、しかるべき制裁を受けてもらわなければならないだろう。

 

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