ヴィルが見つけた〝魔法〟
「リザード、お前、この先どんどん大きくなるんだろうなあ」
なんて話をしながらエアが髪をかき上げた瞬間、ヴィルがハッとなる。
「待て!」
そう言ってエアの腕を掴み、髪を覗き込む。
「え、何!?」
「動くな!」
何か発見したようで、エアの髪をかき分けていた。
「え、何? 俺、禿げてる?」
「違う! いいから大人しくしていろ!」
ヴィルはエアにしゃがみ込むように言うと、皆を呼び寄せる。
「頭皮に魔法陣を発見した」
「えっ!?」
エアがもっとも驚いていた。それも無理はないだろう。
「なんの魔法なんだ!?」
「待て、今調べている」
爪よりも小さく、鏡を見ても気付かないくらいの薄い魔法陣だった。ヴィルはよく気付いたな、と思う。
ヴィルが呪文をぶつぶつ唱えると、魔法陣が輝きを放つ。
「うわ、熱っ!」
「我慢しろ」
「俺の髪、燃えてない!?」
「燃えるとしたら頭皮だが、燃えていないから心配するな」
「ううう」
浮かんだ魔法陣が真っ赤で、解析や解除などができないようになっている。
エアにこの魔法をかけた魔法使いはとてつもない実力者なのだろう。
それにしても、いったいなんの魔法がかかっているというのか。
ヴィルは何を思ったのかナイフを取りだし、手を切りつけると魔法陣に振りかけた。
「なっ――!?」
驚くエアの傍で、ヴィルがある宣言をした。
「我はかの者を守護する者のひとり――」
すると魔法陣の封印が解けていった。
エアの全身が輝きに包まれ、姿が見えなくなる。
そうこうしているうちに、エアに変化があったようだ。
「な、な、なんだ!? 今度は髪全体が熱くなって、いや、目も痛い! 左目だけ! いや両方! 両方もげる、目がもげる!」
ただそれも長くは続かなかった。
輝きが治まると、エアの姿に変化があって驚く。
「エア、あなた――!?」
「俺の髪、全部抜けていると思う。目もあるのか?」
「見えないの?」
「いや、両方見えている」
それを聞いて安堵する。
「なあミシャ、俺、どうなっているんだ?」
「髪が……」
エアは恐る恐るといった様子で髪に手を伸ばすも、触っただけではわからないような変化だろう。
「あなたの麦わら色の髪だけれど、レナ殿下と同じ、金髪になっているの」
「え!?」
ここでジェムが鏡に変化し、エアに見せていた。
「うわっ、本当だ!!」
王家の者が持つ、美しい金の髪である。
「それから瞳も――」
「あっ、左目だけ変わっている!!」
エアの赤褐色の瞳は、王家の者が持つエメラルドのような瞳に変化していた。
「右目の赤もずっと明るくなっているわ」
「本当だ!」
おそらく誰かが、エアが見た目で王族だとわからないように変化の魔法をかけていたのだろう。
いったい誰が?
「魔法が解けないよう、仕掛けがたくさんかかっていた」
特にエアを利用しようと画策する者が魔法に干渉しようとしたら、害が及ぶようになっていたらしい。
「唯一封印が解ける条件が、守護者の宣言だった」
エアに危害を与えず、守ることを誓うと封印が解けるようになっていたらしい。
「もしかして、母さんが?」
そういえばエアの母親は魔法が使えると言っていた。たしかエアは寝言でぶつぶつ繰り返される呪文を聞いて魔法を学んだと話していたような。
「この魔法は特殊で、術者亡きあとも継続して効果が現れるようになっているようだ」
「母さん、俺のためにそんな魔法を使っていたなんて。ただ生きるだけでも、辛そうだったのに……」
エアの髪と瞳の色はすぐに元通りになった。




