真実をエアに
翌日、ミュラー男爵はエアを連れてレヴィアタン侯爵の屋敷を訪問した。
宣言していたとおり、たった一日で気持ちの整理が付いたらしい。
「ミシャ、遊びにきたぜ! 今日はなんかおじさんが改めてお礼を言いたいってのと、大事な話があるって言っていたんだが」
「ええ、そうなの」
案内した客間に、レヴィアタン侯爵とヴィルがいたので、エアは少しだけ緊張した面持ちを浮かべる。
隣にいた私に小声で「このメンバーで何を話すんだろう?」と少し不安げな様子だった。 安心させるために背中をぽんぽん叩くことしかできなかった。
ここで本題へと移る。
「実は今日、エアさんに初めてお聞かせする話があるんです」
エアは緊張の面持ちで頷く。
レヴィアタン侯爵やヴィルがいる状況で聞かされることもあって、重要な話だと理解しているのだろう。
「何から話せばいいのかわからないのですが、一つ、大事なことから」
エアがごくん、と生唾を呑み込んだあと、ミュラー男爵は彼に真実を伝えた。
「エアさん、あなたの亡くなった母君は、王妃様でした」
「――え?」
「あなたが生まれた日、何者かに襲撃を受け、逃げてきたんです」
「俺の母親が、王妃って」
エアも母親が貴族のお嬢様かもしれない、というのはわかっていたという。
しかしながら王妃だったというのは想像できていなかったようだ。
「え、なんで……? そんなの」
「ずっと言い出せずに、申し訳なく思っています。私はかつて王妃様の護衛をしていた騎士で、あなたのことを王子だと思い、今日まで守ってきました」
「俺が王子だって!? ありえないだろうが」
エアは信じがたいという表情で私を見てきた。
「なあ、ミシャ、信じられないだろう?」
なんて言っていいのかわからなくて、エアの震える肩を支えることしかできなかった。
「そんな……俺が王族だったなんて……信じられないよ」
「エアさん、あなたが所持していた母君の形見である緑色の魔宝石は、王太子の証だったんです」
「え、あれが!?」
もっと立派な宝飾品であればわかりやすかっただろうに、見た目は完全にただの裸石にしか見えなかったので無理もないだろう。
「俺、あれ、ミシャにあげてしまった!」
「ええ、存じています」
「母さんが、世話になった人に渡せって」
「ええ。王妃様は持っていても、無駄だと思ったのでしょう」
頭を抱えるエアだったが、「そっか、そうだったんだ」と小さく呟く。
「母さんがさ、貴族だか王族だかって話題のときに、顔面蒼白になって、取り乱していたんだ。ずっとどうしてだろうって思っていたんだ」
その疑問が今日、きれいさっぱり晴れたという。
「王妃の立場を追われて、生きながらえている状況だったら、誰だって怖いよな」
もっと取り乱すかと思っていたのに、エアは思っていた以上に落ち着いていた。
その後も、ミュラー男爵の話を淡々と受け入れていたように思える。
レナ殿下が女性だと聞かされても「そうだったんだ」と言って、あっけらかんとしていた。
「いや、男にしては線が細かったし、物腰もやわらかかったからさ」
女性だと聞いて納得できたという。
「ずっと黙っていて、すみませんでした」
「おじさん、謝らないでよ。俺、おじさんにはずっと感謝していて、でも、どうしてここまでよくしてくれるんだろうって、疑問だったからさ」
話を聞くことができてスッキリしたという。
今にも泣きそうなミュラー男爵に、エアは感謝の気持ちを伝えた。
「これまで守ってくれて、ありがとう」
「はい……エアハルト殿下」
ミュラー男爵の頑張りが報われた瞬間だろう。




