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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
六部・三章 思惑渦巻く

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ミュラー男爵の過去⑤

 その後、海賊退治と舶来品取引の功績が国に認められ、爵位が叙勲されることとなった。

 名前もブランド・ミュラーから、貴族の一員であることを示すブランド・フォン・ミュラーと名乗るようになった。

 ただミュラー男爵は叙勲式には参加せず、社交場に姿を現さない謎の商会長となったのだ。

 それも無理はない。

 彼は世間的には犯罪者で、指名手配されているブランド・フォン・アーベルなのだから。


「富も名声も、爵位も手に入ったというのに、私の心は空っぽでした」


 唯一、エアの存在だけが心の支えだったという。


「無邪気なエアさんに、助けられたことは一度や二度ではありません。彼は私にとって救世主なんです」


 王妃殿下の子でなくとも、エアのことは大切に想っているという。


「エアさんが望むことは、なんだってするでしょう。自ら手を汚すことだって厭いません。彼は本来であれば未来の国王であるべき尊きお方、それに王妃殿下の忘れ形見ですから」


 ミュラー男爵のエアに対する巨大感情について、ずっと謎だった。

 もしかしたらミュラー男爵が本当の父親なのではないのか、と思っていたくらいである。

 しかしながら私の推測は大きく外れた。

 ミュラー男爵は心の奥底から王妃殿下に心酔し、忠誠を誓い、守ろうとしていたのだ。

 子育て期間中の母熊のように凶暴な一面を見せるのも、無理はなかったのだろう。


「私が知る事情は以上です」


 あまりにも壮絶な話に、皆言葉を失っているようだった。

 沈黙に耐えきれず、ミュラー男爵に話しかけてしまう。


「その、よく話してくれる気になりましたね」

「ええ。先日、あなたが言っていた〝平和な世の中で安心して魔法学校に通いたいんです。それが叶うならば、なんだってします〟という言葉に感銘を受けたもので」

「そうだったのですか!?」

「ええ」


 そもそも平和的に解決しよう、ということが頭になかったようだ。


「王都を戦禍せんかに沈めるか、犯人に対してエアさんや王妃様と同じ目に遭わせるかのどちらかだな、と考えていたので」


 国はとんでもない問題児を二十年以上も野放し状態にしていたようだ。

 その暴走を一歩手前で止めることができて本当によかった。


「私も、味方が必要だと思ったんです。ミシャ・フォン・リチュオル、あなたみたいな人が」

「私ですか!?」


 てっきりリンデンブルク大公やヴィル、レヴィアタン侯爵と手を組むと望んだのかと思いきや、まさかの私だった。


「あなたを味方にしていたら、あなたを取り巻く権力者ももれなく付いてくるでしょう」

「なっ――!」


 そんなわけない、と思ったものの、ヴィルが「たしかに」と言い、レヴィアタン侯爵も深々と頷いていた。


「そもそも、独りで何かをしようと思ったことに無理があったんです。騎士隊に拘束されて、つくづく思いました」

「騎士隊では、ミュラー男爵が王妃殿下の近衛騎士隊長であることは露見しなかったのですか?」

「ええ。二十年も経っていますから、見た目もずいぶん変わっていましたし、今の騎士隊は節穴揃いですので」


 誰もブランド・フォン・アーベルであると疑っていなかったという。

 不幸中の幸いだったわけだ。


「とにかく、今後はあなた方と協力し、事を進めていくつもりです」


 どうするのか、という方向性について話し合わなければならない。

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