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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
六部・三章 思惑渦巻く

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酒場にて

 酒場は騒がしく、私達のように静かに聞き耳を立てている者なんかいない。

 そのため、周囲を気にすることなく、大声でツィルド伯爵の悪口を言っていた。


「まったく、貴族の家に生まれて、偶然爵位を受け継いだだけで国王サマのように偉そうにしやがって!」

「あんな奴、伯爵でもなければ、誰からも相手にされないだろうよ!」

「そうに決まっている! 貴族じゃなかったら、何者でもないくせに!」


 貴族の家に生まれた者として、なんとも耳に痛い話をしてくれる。

 ヴィルも同じようなことを思っていたのか、苦虫を噛み潰したような表情で話を聞いていた。


「もうあんな奴のもとでやってられねえ、って思ったから、辞めてきてやった」

「お前、大丈夫なのかよ」

「三人目の子がもうすぐ生まれるんだろう?」


 ここでまたしても、よくよく知っている人物の名を耳にすることとなる。


「実は、今度からミュラー商会で働くことになったんだ」

「ミュラー商会だと!?」

「また、大きなところに決まったんだな」


 いいタイミングで給仕係が麦芽酒を運んでくる。

 無言でドカンと置いてくれた。


「他、注文は?」

「麦芽酒を二つ」


 まだ一口も飲んでいないのに、ヴィルは再度麦芽酒を注文した。

 その理由をこっそり耳打ちする。


「ここはどんどん注文しないと怪しまれる。逆に、たくさん頼んでいたら悪目立ちしない」

「なるほど、そういうわけだったのですね」


 この麦芽酒をどうするのか、と思っていたら、ヴィルが水の魔石をカップに落とす。

 すると、みるみるうちに麦芽酒を吸収していった。

 この手があったか、と関心してしまう。

 吸収させた麦芽酒は、お酒好きの魔法生物にお裾分けするらしい。


 と、麦芽酒に気を取られている間にも、男性陣の会話は続いている。


「ミュラー男爵は身分、経歴問わず雇ってくれるようで、給料もツィルドの野郎の倍以上出してくれるんだ」

「そいつはすごいな」

「俺も辞めて、ミュラー商会に行こうか」


 王都ではミュラー商会の悪評が流れているというのに、港町ではそうではないようだ。


「だったら、紹介してやってもいい。誰でも採用するようだから」

「本当か?」

「頼む!」


 誰でも採用する、という言葉が引っかかった。

 何か罠があるように思えてならない。


「ちょうどよかった。今日、この品物を紹介しようと思っていて」

「なんだ?」

「どうした?」


 円卓の上にどっかり置いたのは、葉巻の束である。


「これは貴族サマも使っている特別な葉巻で、ミュラー商会に入ったあと、皆、これを買って売り捌く仕事をしている。通常、価格の半額以下で買い取り、自分で好きな価格設定をして売り捌く。ミュラー商会で働くことに興味があるんだったら、これを売ってやってもいいが、どうする? 俺はすでに、これで金貨三枚も儲けてかなりの利益を出しているんだが」


 話を聞いていて思う。これってねずみ講ではないのか、と。

 ヴィルが突然立ち上がったかと思えば、その男性達の卓へとずんずん進んでいった。

 何をするのかと思えば、男性の一人が勧めていた葉巻の売買に興味があると言い出したのだ。


「なっ、話を聞いていたのか?」

「耳に入っただけだ。それよりも、葉巻の販売について詳しく聞かせてくれ。すぐにでも、自分で売り捌けるようになりたい」


 ヴィルが銀貨を差しだし、葉巻を買い取ると言うと、男は喜んで差しだす。

 ここでヴィルの目論みに気付く。

 ねずみ講に嵌まった振りをして、内情を探るつもりなのだろう。


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