意外な情報
ギルドから少し離れた個室がある喫茶店にヴィルは案内する。
そこで好きな物を頼んでほしいとヴィルは丁寧に言ったのだが、男性二人組は紅茶だけ頼んでいた。
なんとも気まずい時間が流れる。
男性二人組は二十歳半ばくらいだろうか。しかしながら二十歳に満たないヴィルの圧力に負け、萎縮しているように見えた。
普段、国王陛下や上位貴族に接している男性である。一般人からしたら、普通に過ごしているつもりでも、威圧的に感じてしまうのだろう。
紅茶が運ばれたあと、本題へ移るようヴィルが促す。
「して、先ほど話していた噂話について、詳しく聞かせてほしい」
男性達は目を合わせて頷いたあと、話し始める。
「ここ最近、怪しい商人が港街に出入りしているみたいで」
「それが奴隷商ではないか、って噂になっているんだ」
人身売買は犯罪だ、国内でも固く禁じられている。
けれども法の目を掻い潜り、それを生業としている者達がいるかもしれない。
怪しい商人の目撃情報と、ここ最近多い誘拐事件と結びつける者も少なくないようだ。
「それでその商人っていうのが」
「おい、止めろよ」
片方の男性が止めるも、すでに聞いてしまった。
ヴィルの圧で聞き出すのかと思いきや、追加の金貨を手渡す。
すると先ほど止めた男性のほうが話し始めた。
「港町で誘拐した人を捌いているのが、ミュラー商会のミュラー男爵って噂があって」
「もちろん、ただの噂で、実際に目にした人がいるわけではなくて」
噂とはそうやってどこが出所かわからない状態で、広く知れ渡るものだ。
火のない所に煙は立たない、なんて言葉もある。
ミュラー男爵が何かしら、怪しい動きをしているのは間違いないだろう。
彼らが知っている情報はすべて聞き出せた。
ヴィルはさらに口止め料を払う。
これはこれ以上噂を広げないでほしいというものと、私達が情報を嗅ぎ回っていることを言いふらさないように、という意味合いでもあるようだ。
「詳しく聞かせてくれて、感謝する」
「い、いえ」
「そ、それでは」
男性二人組はそそくさと帰って行った。
彼らの足音が消えてなくなると、ヴィルは盛大なため息を吐く。
「まさかここでミュラー男爵の名を聞くことになるとは」
「意外でした」
彼は魔法使いを雇っている。もしかしたら、魔法で人々を誘拐し、他国に売り捌いている可能性が浮上した。
「正直、ミュラー男爵まで相手にしている場合ではないのだが」
なんでもヴィルは個人的にミュラー男爵の調査に乗り出していたようだ。
「まだ完全に情報が集まっているわけではないが、彼はかなり危険な人物らしい」
なんでも国が危険な海域だと指定する海賊と取引をしていたり、犯罪者を匿ったり――。
「さらにエア・バーレを守るためならば、命を失っても惜しくない。そんな話をしていたらしい」
そんなミュラー男爵がなぜ、商人をしているのか。
「それについては、謎な部分も多い」
ミュラー男爵の養子になったのも、その頃だったようだ。




