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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
一部・第三章 魔法学校での試練!?

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毒の可能性について

「毒、だと? ありえない」


 なんでもヴィル先生はここ三、四年、ほぼ毎日ヴァイザー魔法学校で食事を取っていたらしい。


「毒だとしたら、誰かがずっと、私に盛り続けていたということになる」

「どこで食べていたのですか?」

「校舎の最上階にあるレストランだ」


 以前、レナ殿下と一緒に食事をしたレストランだろう。

 ヴィル先生がお昼に、ステーキを食べたのも同じお店らしい。


「休暇期間中の体調はどうだったのですか?」


 ヴィル先生はハッとなる。顔色が青ざめ、今にも倒れてしまいそうな雰囲気となった。


「休暇期間中は、そこまで具合は悪くなかったように思える」

「やっぱり、学校にいる間に限定して、体調不良を抱えていたのですね」


 これまでおかしい、と思わなかったのか、と指摘すると、ヴィル先生はまさかの情報を打ち明けてくれた。


「私と似たような症状を、へい……伯父も発症していて、一族に遺伝する疾患のようなものだと思っていた」


 なんでもヴィル先生の伯父に当たる人物も、酷い頭痛や眩暈、不眠などに悩んでいるらしい。

 ヴィル先生よりも症状が重たく、今は一日中寝込まないといけないような状況なのだとか。


「どうか病気の類いであってほしい。毒を盛られているとなれば――」


 おそらくだが、誰かがヴィル先生の命を狙っている。

 大量の毒で殺すのではなく、少量の毒を与え、少しずつ命を削っていっているのだろう。


「ヴィル先生、毒のことだったら、ホイップ先生に聞きましょう!」

「しかし彼女は」

「早く!」


 ヴィル先生の腕を引き、ホイップ先生の研究室を目指す。

 まだ灯りが点いていたので、ホッと胸をなで下ろした。


「ホイップ先生、少しよろしいでしょうか!?」

「あらあ、珍しい二人。いつ仲良くなったのかしらあ」

「そんなことはどうでもいい」


 そうだった。早速本題へと移る。

 ヴィル先生が一歩前に出て、自分から事情を話し始めた。


「ここ三、四年、毎日のように具合が悪く、医者と魔法医にかかったのだが、どちらも共に異常なしと言われて」

「あらあ、それって毒でも盛られているんじゃないの~?」

「今日、彼女にも毒の可能性について指摘されました」

「そう」


 毒を盛られた状態なのか、調べることができるのか。

 そうホイップ先生に問いかけると、こくりと頷いた。


「もちろんよお。ここにホワイトリーフっていう薬草があって、血を垂らしたあと、もしも毒があったら、黒く染まっていくのよ」


 なんでもホワイトリーフはこの世のありとあらゆる毒を吸収するらしく、普段は傷口から入った毒を抜くさいに使っているらしい。


「さあ、ここに一滴、血を垂らしてくださる~?」


 ヴィル先生はナイフを取り出し、迷いもせずに指先を切る。

 珠のように浮かんだ血をホワイトリーフに擦り付けた。

 すると、真っ白なホワイトリーフが瞬く間に真っ黒に染まっていく。


「毒――!?」


 ヴィル先生は驚愕と困惑が混ざったような声をあげる。


「やっぱり毒で間違いないみたいねえ。いったい誰が、あなたに毒を盛ったのかしら~?」

「心当たりはない」

「うふふ、誰だってそうよお。恨み、妬みは知らないうちに買っているものなの~」


 ホイップ先生に毒の種類について解析できるか聞いてみる。

 それ以外に、ヴィル先生は私が薬局に卸した魔法薬も提出する。


「あらあ、この魔法薬は――」

「なぜか相性がよく、発作を止めてくれる唯一の魔法薬だ。これについても、調べてくれるだろうか?」


 ホイップ先生はこの魔法薬が私が調合したものだと知っている。アルバイト申請してもらうときに、提出していたのだ。

 私のほうを見つめたので、喋らないでくれと首を横に振った。すると、わかったとばかりに頷いてくれる。

 そんなことはさておき、なぜこの魔法薬だけヴィル先生の発作に効果があるのか、というのは気になるところだ。

 理由がわかったとしても、魔法薬を作っているのが私だと名乗り出る気にはならないのだが。


「数日かかるけど~、やってみせるわ」

「忙しいのではないか?」


 外部機関に依頼することもできる、とヴィル先生がテーブルの上に置かれたホワイトリーフを手に取ろうとした。

 けれどもそれを、ホイップ先生は素早く回収する。


「だめよお。あなた、命を狙われているのに、誰を信用するっていうのかしら~」

「それは……たしかに」

「忙しいことはたしかだけれど、あなたの命が狙われていると知って、見ない振りをするわけにはいかないわ~。大丈夫、私に任せてちょうだい」


 ホイップ先生の発言を聞き、感激してしまう。

 こういうお人柄を含めて、生徒の中で人気を博しているのだろう。


「ホイップ先生って、とてつもなくいい先生だったのですね!」

「あらあ、どういう意味かしら?」

「いえ、その、なんだか発言や微笑みのすべてに含みがあるように思えて、その、騙されているのではないか、と考えてしまうものですから」


 ホイップ先生が温室の薬草のお世話を頼んできたときだって、何か目論見があるのではないか、と疑ったくらいである。

 けれどもそんなことはなく、ホイップ先生は私を心配して力を貸してくれただけだったのだ。


「ご、ごめんなさい」

「いいのよ~。この顔と、喋り方のせいで、何か企んでいるのではないかって、疑われたことは一度や二度ではないから~」


 やはり、皆、ホイップ先生のことをそんなふうに見ていたようだ。

 心から謝罪しておく。


「何はともあれ、毒の問題については、まだ誰にも言ったらだめよお~」


 ヴィル先生は神妙な面持ちで頷く。私も「約束します」と誓った。


「あと、なるべく食事はミシャのところで食べるように~」


 なんでも今できる一番の治療は、これ以上毒を口にしないこと、なのだとか。


「毎日ミシャのところにしっかり通うのよお」

「私に言っているのか?」

「他に誰がいるのよお」


 ホイップ先生はヴィル先生の腕をつんつん突きながら喋る。

 二人とも真顔なので怖かった。


「毎日世話になるなど、彼女の負担になるだけなのでは?」

「大丈夫よお。この子、頑張りっ子だから。ね、ミシャ?」

「はい!」


 ヴィル先生の分の食費も用意してくれるというので、問題は何もない。


「そうだわ! ここを出て、他の場所に拠点を移すのはいかが~?」

「いろいろと、役割があるから、それはできない」

「あら~、そう。責任感が強いのねえ。役目を果たすのも大事だけれど」


 ホイップ先生は人差し指をヴィル先生の胸にとん! と指し、にっこり微笑みながら言った。


「あなたはあなたの命を、確実に守りなさいねえ」


 ヴィル先生は神妙な面持ちでこくりと頷いていた。

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