ルドルフの母親について
ホイップ先生が珍しく驚いた表情を見せる。
「自白魔法を使って調べたと聞いたんだけれど」
「ええ、ルドルフ先生は母親が生きていることを知らないんです」
「なんてことなの~」
現在、ルドルフの事情聴取は終わり、処罰について審議しているという。
黒い宝石を所持していた母親については、亡くなっているとのことで調査は行われなかったらしい。
「キャロライン・アンガード――下町出身で、素性など確かじゃない女性だという調査結果が上がっていたのよお」
「下町出身? ルドルフ先生の母親はルームーン国出身の可能性があるのですが」
「待ってちょうだい、どういうことなの~?」
ルドルフの母親は貴族の家に仕えていて、そこの当主様と関係を結んで子どもを産んだ。
当主の目に留まるような女性は、上級使用人である。下町出身者が務まるわけがない。
「もしかして、下町で名前を買ったのかしらあ?」
「その可能性は否めません」
ロッコさんや奥方がルドルフの母親は所作から庶民ではなかったと言い切っていたのだ。
下町出身ということはありえないだろう。
「何か問題があったようで、今はルドルフを探しに王都までやってきているようで」
「思っていた以上に、面倒な事態みたいねえ」
「はい……。国の上層部に報告しますか?」
「ん~~~~」
ホイップ先生は人差し指を顎に添え、しばし考え込むような仕草を取る。
「黙っていましょう」
「え!?」
「だって、長年死んだと言って姿を隠していたようなお方なんでしょう? 大きな騒ぎになったら、どこかに隠れて、見つけることができないかもしれないから~」
たしかに指名手配犯として国が総出で捜索したら、ルドルフの母親は雲隠れしてしまうだろう。
「使い魔を使って探せたらいいのだけれど、似顔絵か何か描けるかしら~?」
「いえ、私は絵心がないので……。ああ、そうだ! ルドルフ先生の母親の所持品を預かっているんです」
ジェムに預けていた銀の首飾りをホイップ先生に見せた。
「首飾りにある残留魔力で、探すことはできませんか?」
「もちろん、できるわよお。さすがだわ~」
ホイップ先生は首飾りに触れずに、手をかざして魔法で解析する。
すぐに終了したようで、鷹と鷲、梟の使い魔に読み込ませたあと、空へと放った。
「見つかるといいわねえ」
「ええ」
ルドルフの母親の生存がどうかバレずに、先に見つけられますように。
今は祈る他ない。
ひとまず、ルドルフの母親の問題については、ホイップ先生の使い魔に調査を任せておこう。
「まだまだ問題が山積みで」
「王太子の証についてかしら~?」
「そうなんです」
「なかなか難しい問題よねえ」
「ええ」
王太子の証について、本来の持ち主であるレナ殿下にお返ししたい。
けれどもそれだけは絶対に止めたほうがいいと言う。
「あの子が王太子の証を所持していなかった理由があると思うの」
女性だからとかではない、別の問題があるのかもしれない。
「あの子は大きな後ろ盾がないから、危険なのよ」
通常、王太子となる者には騎士隊や貴族など、なんらかの派閥が背後につくという。
けれどもレナ殿下は王妃殿下の庇護があるばかりで、国内の勢力を味方につけていない。
「リンデンブルク大公家がノアを伴侶として差しだしたようだけれど、完全に支持しているわけではないみたいだから。その辺は謎なんだけれど~」
王太子の証は引き続き、ジェムに預けておくように言われた。




