ミシャの杖
いったい何事かと思っていたら、目の前に細長い包みが差しだされる。
「ま、間に合った!」
「つ、杖が、完成したようで」
どうやら私達の帰宅に間に合うように、大急ぎで作ってくれたらしい。
受け取ると、信じられないくらい軽い。
「すごく軽いわ!」
「相性がいい証拠だろう」
ロッコさんにはそれなりの重さを感じるらしい。
なんでも相性がいい杖は、羽根のように軽く感じるようだ。
見て確認してほしいというので、開封させていただく。
ようやく雪属性の杖が手に入ったのだ、ドキドキである。
無造作に包んであった包みを開くと、そこには純白の杖が出てきた。
「わあ、きれい……!」
先端は菱形カットされた雪魔石が填め込まれていて、私が握った瞬間に六花模様が浮き出てきた。
スノー・ディアの角で作られた柄部分はすべすべしていて、驚くほど手に馴染む。杖自体がまるで体の一部みたいだと思った。
それから体中を巡る魔力の流れがはっきり自覚できるようになる。
溢れる魔力量に驚いてしまった。
「――!」
これまでは自分自身の魔力について把握できてなかったのに、手に取るようにわかるようになったのだ。
変化はそれだけではない。
『――きれいな杖だあ』
『――お似合いだねえ』
『――どんな力があるんだろう?』
「え!?」
ふわふわ降る雪を大きくしたような、白い塊が取り囲んでいる。
この子達は精霊だ。
私の周囲に雪の精霊達がたくさんいて、雪属性の杖を興味津々とばかりに覗き込んでいたのだ。
「ミシャ、どうした?」
「あ、えっと、その~~」
精霊達の距離感から、きっとこれまでも傍にいたのだろう。
私はずっと気付かないまま過ごしていたらしい。
「実は私の周囲にたくさんの雪の精霊達がいて」
その言葉に雪の精霊達が反応する。
『――見えるの?』
『――本当に?』
『――信じられない!』
私が雪の精霊達が見えることがわかると、ワッと辺り一面から出てきて取り囲んだ。
飛び跳ねて喜んだり、頬をスリスリとすり寄ってきたり、歌を唄い始めたり、とお祭り騒ぎとなる。
ここで、皆にも雪の精霊達の姿が見えるようになったようだ。
両親は目を丸くし、クレアは精霊達に手を伸ばし、マリスは言葉を失っている。
ロッコさんと奥方も、精霊達の姿を驚いたような表情で眺めていた。
ヴィルは私の肩を抱いて警戒の姿勢を見せていたものの、すぐに悪い存在ではないと気付いたようだ。
「あなた達は、ずっと私の傍にいたの?」
『――そうだよ!』
『――生まれるより前から!』
『――導いたんだ!』
ここでジェムがどこからともなく登場する。
雪の精霊達を前に、誇らしげな様子でいた。
まるで自分が引き連れてきました! とばかりの表情を浮かべていたのだ。
「ねえジェム、あなたにはこの子達が見えていたのね」
ジェムは当然だとばかりの視線を向けていた。
雪の精霊達はジェム公認だったようで、ホッと胸をなで下ろす。
ここでロッコさんがある提案をしてくれた。
「その杖に名前を付けてくれないか?」
「いいの?」
「ああ! 一晩中考えたんだが、いい名前が浮かばなくてな」
私も突然そんなことを言われても、ネーミングセンスなんて皆無である。
ただ、杖を握った瞬間、お姫様みたいにきれいだと思ったのだ。
「決めたわ。この杖の名前は、〝スノー・ホワイト〟!」
白雪姫に由来する名前である。
「スノー・ホワイトか! いい名前だ!」
ロッコさんも気に入ってくれたようで、ホッと胸をなで下ろした。
無事、杖を受け取って安堵しているところに、誰かが複数でやってくる。
「またミシャお姉様のお見送りですか?」
「誰かしら?」
走ってやってきたのは、数日前に村で見かけた子ども達だった。
「ミシャお嬢様!!」
「大変なんだ!!」
子ども達の顔色は真っ青だった。
「あなた達、どうしたの?」
「ポネが! ポネが!」
「シュネ山に行って、雪崩に呑み込まれたんだ!」
「なんですって!?」
とんでもない事態に、くらりと目眩がした。




