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鍛冶職人のおかみさんのもとへ

 午後からはロッコさんの奥方のところへ話を聞きに行く。

 忙しいところに申し訳ない、と思ったものの快く応じてくれた。


「ミシャお嬢様が新しい婚約を結んで、素敵な婚約者と帰ってきたと夫から聞いていたものですから、ぜひとも会ってみたいなって思っていたんですよお!」


 お祝いだと言って、奥方はベリーケーキを切り分けてくれる。

 ベリーシロップをたっぷり塗って熟成させたケーキの味わいは濃厚で、とてつもなくおいしい。ヴィルも気に入ったようで、奥方から熱心に作り方を聞いていた。


「あらあら、まさか料理をされるなんて! いったいどうして料理をしようと思ったのですか?」

「彼女に作って、おいしいと言ってもらいたくて」

「まあまあ! なんて婚約者思いのお方なのでしょう!」


 ヴィルと奥方だけが盛り上がり、私は完全に置いてけぼりだった。

 そんな話はいいとして。


「その、おかみさん、聞きたいことがあって」

「キャロラインさんのことでしょうか?」


 どうやら私達の目的はお見通しだったらしい。話が早い、と本題へ移る。


「ロッコさんから、ルドルフの母親と付き合いがあった、という話を聞いて」

「付き合いというか、お金の無心だったわねえ」


 なんでもルドルフの母親が再婚した男性は酒癖が悪く、暴力をふるうこともあったらしい。ルドルフにだけは手を出させないように、と自らが標的となって守っていたようだ。

 前妻からの嫌がらせがあったという話は聞いていたものの、まさか家庭内で暴力行為があったなんて。

 きっとルドルフの母親は息子を守るために、徹底的に隠していたのだろう。


「キャロラインさんはいつも、殴られたあとを隠すために厚化粧になっていたんです。気の毒でした……」


 そんなルドルフの母親は、王都から持ってきたと思われる宝飾品を売りにきていたようだ。


「その中に、許可証がないミリオン礦石があって驚いてしまって」

「――!?」


 ミリオン礦石というのは特定の病気の治療に使われる物である。病気を発症していれば薬として有効なのだが、それ以外の者が口にすると、病に罹ったかのような体調不良を訴えるらしい。体に蓄積される毒で、一定量を超えると死に至るようだ。

 ミリオン礦石は国内で生産されておらず、すべてルームーン国からの輸入品が使われている。許可証がなければ取り引きもできない。


「さすがにうちでは買い取れないって断ったのですが……」


 どくん、とイヤな感じに胸が脈打つ。

 ミリオン礦石はレイド伯爵が自害に使った物でもあるのだ。

 まさかルドルフの母親と繋がっていたのだろうか?


「キャロラインさんから買い取ったこの銀の首飾りは、国内の工房では作られていない意匠なんです」


 繊細な透かし細工がなされた首飾りは、国内には自生していない花をモチーフに作ったものらしい。


「ルームーン国に自生する、シネラリアの花だな」

「ええ、よくご存じで」


 この首飾りをエルノフィーレ殿下に見せたら、何かわかるだろうか?

 ヴィルも同じことを考えていたようで、買い取りさせてもらえないかと交渉を始める。


「これは、キャロラインさんが引き取りにくると思って、取っていたんです」


 しかしながら、前回再会したさいに聞いたところ、処分してほしいと言ったそうだ。


「キャロラインさんはすでに首飾りは溶かされて武器の材料になっていると思っていたようで、一刻も早く手放すように言っていて……」


 そんなわけで、売るのは問題ないという。

 懸念すべきは価格だろう。


「価格をつけるとしたら、金貨七枚ほどになるのですが」


 ヴィルは懐を探って革の財布を取りだし、金貨を十枚並べる。


「銀の価格は上がっているだろうから、これくらいが相場だろう」

「いえ、こんなにいただくわけには」

「情報料と口止め料も含まれている」


 そんな提案をすると、奥方は納得し、受け取ってくれた。

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