鍛冶工房にて
それからというもの、私とヴィルは滞在を一週間と決め、ラウライフで過ごすこととなった。
とは言っても、未だに雪が多く残るラウライフでできることは少ないので、各々勉強をしたり、家族と語らったり、ヴィルとお菓子作りをしたりなどの繰り返しとなる。
二泊くらいにしておけばよかった、と後悔したのは言うまでもない。
国王陛下へのお食事も毎日作っていて、近衛騎士が王都からわざわざワイバーンに乗って取りにやってくる。
向こうはホリデー中なのに恐縮です、なんて言ってくれるが、私からしたらラウライフまでやってきてくれて申し訳なかった。
早めに帰ろうかとヴィルに提案しても、まだラウライフでの生活を堪能したいと言って断られてしまう。
これ以上、いったい何を堪能するというのか。
王都のほうができることも多いだろうに……。
そんなこんなで滞在すること四日目に、クレアの婚約者であるマリスがやってきた。
しっかり者というよりはちゃっかり者なマリスは、実家の商店で販売している品物を持ってきて、ヴィルに売りつけようとしてくる。
「こちらはラウライフ自慢の雪解け水で、こちらは春の名物、白樺の樹液、エルクの燻製肉もオススメです」
「ちょっとマリス! お義兄様に何をしているのですか!!」
ヴィルはクレアから〝お義兄様〟と呼ばれて嬉しかったようで、マリスが持ってきた商品をほとんど購入していた。
完全に都合のいいカモと化している。
ヴィルとマリスのやりとりを見て、うんざりする私とクレアだった。
滞在五日目に鍛冶職人のロッコさんから、ヴィルが修理を依頼していたお守りの修理が終わった、という連絡が届いた。
雪属性の杖の製作で手が離せないので、取りにきてほしいとある。
ヴィルと一緒に向かうと、ロッコさんが迎えてくれた。
「ああ、すまない、うちのに届けさせようと思っていたんだが、孫の子守で忙しいみたいで」
暇だったのでどうかお気になさらず、と言ってお守りをありがたくいただいた。
形は元通りだが、新たに魔力を込めないとお守りとしての効果は発揮しないようだ。
この場で魔力を付与してから、ヴィルへと手渡した。
ヴィルは嬉しそうに受け取り、ロッコさんにも感謝の気持ちを伝える。
ロッコさんへの差し入れとしてヴィルと作った焼き菓子や、もしものときの魔法薬を手渡す。
「おお、魔法薬か、ありがたい」
ロッコさんはそう言って、魔法薬をその場で飲み干す。
なんでも私が依頼してからの五日間、起きている時間はほぼ雪属性の杖作りをしていたらしい。
「久しぶりの依頼に気合いが入ってしまって」
この様子だと、寝る間も惜しんで作業をしているのだろう。
睡眠だけはしっかり取るように言っておいた。
再度お礼を言って帰ろうとしたら、ロッコさんが引き留める。
「どうかしたの?」
「少し、話したいことがある」
この五日間、話そうかどうか迷っていたことらしい。
持ってきた焼き菓子と、ロッコさんが用意したベリージュースを囲んで聞くこととなった。
「それで、話というのは?」
「あ~、それが」
ロッコさんは後頭部をガシガシ掻き、眉間に深い皺を刻みながら深刻な様子で話し始める。
「実は、一週間ほど前に、ルドルフの母親がここを訪問してきて」
「ルドルフの母親が、ここを訪問!?」
信じがたい情報を聞き、言葉を繰り返すことしかできなかった。
ルドルフの母キャロライン・アンガードは失踪し、その先で亡くなったと聞いている。
死んだと見せかけて、本当は生きていたということなのか。
いったいなぜ? わからなかった。