ラウライフの子ども達
村を歩いていると、子ども達の多くがソリ遊びをしていた。
雪で山を作り、登ってから滑るというシンプルなものである。
それを見たヴィルがぽつりと呟く。
「ソリは雪国での移動手段というだけでなく、子ども達の遊びにもなるのだな」
「そうなんです」
ラウライフの暮らしではソリが不可欠となる。そのため、子どものうちから慣らしておきたいという大人達の目論みがあるのかもしれない。
「真冬は吹雪が多い上に寒いので、ソリで遊ぶことができるのは今だけなんですよね」
「待望のソリ遊びというわけだ」
「そうなんです!」
やんちゃな男の子達は、雪の山をどんどん高くしていき、スリルを楽しんでいるようだ。
勢いがありすぎて雪の中に埋まろうが、ソリから体を投げ出されようが、関係ないように見える。
「もっともっと雪を積んで高くするんだ!」
「シュネ山よりも高くするぞ!」
子ども達の言うシュネ山というのは、村の近くにある雪山だ。
冬は危険なので近づけないものの、初夏から秋にかけては狩猟に出かけたり、木の実やキノコを収穫したり、とさまざまな恵みをもたらしてくれる。
「うちの父ちゃんは、シュネ山を真冬にソリで駆け下りたらしい!」
「うちの父ちゃんは、シュネ山の山頂から一気にソリで下山したらしいぜ!」
子ども達の会話を聞いたヴィルが、「ラウライフの男衆は猛々しいな」と感想を口にするも、そうではないと否定した。
「ラウライフの男の人達は酔っ払うとたいてい、シュネ山でやり遂げた嘘を話すのよ」
「なぜ、そのようなことを?」
「子どもに尊敬されたいからかしら?」
あとは、退屈な冬期に子ども達へ楽しい話をしたい欲求が生まれるのかもしれない。
「女の子はたいてい〝はいはい〟って受け流すんだけれど、男の子は〝すごい!〟って喜んで、信じてしまうのよね」
「なるほど、そういうわけだったのだな」
シュネ山での嘘を信じる男の子が、酔っ払うと嘘を吐く大人へと成長するのだろう。
「私の父はそういうのは言わなかったんだけれど、叔父は酷かったみたい」
冬になるとリジーが「うちの父親は吹雪の中のシュネ山に行って、ソリで駆け抜けているのよ」なんて自慢していたのだ。
狩猟もできない叔父が真冬の雪山で何をしているんだか、と呆れていたのを思い出す。
「おい、ポネの親父はシュネ山で何をしたんだ?」
「僕の父さんは……わからない」
「ええ、何もしてないのかよ」
「つまらない父親だな!」
ポネと呼ばれた少年は、ショックを受けたような表情を浮かべる。
「お前のところの親父は、意気地なしなんだ!」
「ただ、冬のシュネ山に行くだけなのにな!」
「父さんは……父さんは……」
怪しい雰囲気になってきたので、子ども達に声をかける。
「こらー、何を言い合っているのよ!!」
「やば、ミシャお嬢様だ!」
「逃げるぞ!」
子ども達はクモの子を散らすように走って逃げていった。
助けてあげた男の子も、なぜか一緒になって。
がっくりとうな垂れてしまう。
「ミシャ、大丈夫か?」
「ええ」
男の子達が作った雪山は往来の邪魔になるので、ヴィルと協力して平らにしていく。
途中、ジェムがやる気を出して一気に崩してくれたので、さほど時間はかからなかった。
「頑張って作った雪山がなくなって、子ども達はショックを受けるのではないのか?」
「大丈夫です。私達がしなくても、気付いた大人達が崩すので」
元気がありあまっているので、また明日になったら立派な雪山を作ることだろう。




