鍛冶工房にて
店内には壁にまでびっしりと武器が並んでいる。
剣に斧、槍に弓から、魔法使いが使う杖や指輪なども置いてあった。
なんといっても、ここの工房の自慢は魔石仕掛けの魔法銃だろう。
銃弾の代わりに魔石をセットし、照準なども自動で行ってくれる。魔石に込められた魔力に左右されるものの連射が可能で、狩猟初心者でも上手く扱えるという利点があるのだ。
ヴィルは魔石銃を見たのが初めてなようで、「とんでもなく高度な武器があるな」と感心した様子でいた。
ロッコさんは「こっちだ!」と言って、お店の奥にある商談用の部屋へ案内してくれた。
「すまないな、今日は母ちゃんがいないから、ベリージュースで勘弁してくれ」
おかみさんは食堂で働いていて、今日は予約が数件入っている日らしく、不在だったらしい。
「酒がよかったか? 悪いがここにはなくて」
「いえいえ、まさか!」
昼間からベリー酒を豪快に飲み、他の人にも振る舞いそうな雰囲気があるロッコさんだが、意外にもお酒は飲めず、ベリージュースを愛飲しているようだ。
「それで、話というのは?」
「武器についてご相談したく」
ロッコさんは普通の鍛冶職人ではなく、武器に魔法を付与して製作する特殊な存在だ。
お店にあった魔法銃も、ロッコさんが一つ一つ魔法を込めて完成させているのである。
「雪属性の杖の製作をお願いしたいのだけれど」
「雪属性の杖だと!?」
「材料はあるの」
ジェムに預けていたアイテムを、テーブルの上に並べる。
するとロッコさんは目を見張った。
「これはスノー・ディアの角と、雪魔石、雪の砂、六花草――全部希少なアイテムじゃないか!」
ロッコさんは虫眼鏡のような物を取りだし、アイテムを覗き込む。
「品質も申し分ない」
虫眼鏡のような物は鑑定した情報を見ることができるアイテムなのだろう。
「よくこれらの品を集めることができたな……!」
特に六花草はアイテム採取専門の冒険者でも、依頼を簡単に引き受けてくれないような場所にあるという。
「いったいどこで入手したんだ?」
「王都から空を飛んで一時間くらいの場所にある、樹氷の森です」
ヴィルの使い魔に乗って行き着いたと説明すると、ロッコさんは何かに気付いたのか、さらなる質問をしてきた。
「もしや竜か何かか?」
ヴィルが頷くと、「やはり」と口にする。
なんでも六花草があるような場所は、強風が吹き荒れ、ワイバーンや巨大鳥など、飛行を可能とする使い魔でも簡単に近づけないようだ。
雲の上を飛んでいたのに加え、セイグリットに守られていたからか、どんな場所でどんな環境にあったのかまったく意識していなかった。ロッコさん曰く、六花草は強風と高い山に阻まれた場所にのみ自生しているという。
「なるほどな……」
ヴィルが雪属性の杖についての設計図の写しをロッコさんに手渡す。
「こういった品なのだが、実現可能だろうか?」
ロッコさんは食い入るように見つめていたが、「こいつは……」と困惑するような反応を見せていた。
「とんでもなく複雑な構成になっているようだ」
「依頼料は惜しまない」
ヴィルの発言を聞いてそうだった! と思う。
「あの、ヴィル先輩、その」
「どうした?」
「代金については応相談で」
「その辺は気にするな。国王陛下がミシャに礼をしたいと言っていたから、杖の製作費くらいは出してもらえるだろう」
「国王陛下だって!?」
ヴィルの発言を聞いて目を剥いたのだが、私以上にロッコさんがびっくりしていた。
「いや、竜を従えているということは、王族の身内だな」
それは初耳である。ヴィルに聞いても、あまりピンときていないようだった。
「この国の始まりのきっかけは〝竜〟だろうが。それから国王に相応しい者のところには、竜が召喚されるって話を聞いたことがある」
その話も初めてだ。
ヴィルもそうだったのか、と顔を見たら、なんとも複雑そうな表情を浮かべていた。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
ここで話すようなことではないのだろう。そう察し、深く追求しないでおいた。