雪属性の杖を求めて
完全に復活できたのは、騒動から二日後の話だった。
せっかく実家にいたのに、眠って過ごさなければならなかったのである。
正直なところ、昨日の時点でかなり元気になっていたのだが、ヴィルや家族にまだ休んでおくようにと説得され、大人しく過ごすしかなかったのだ。
ヴィルと共にスノー・ベリー茶を囲み、反省会を行う。
「すべての原因は、私がいい雪魔石を作りたいと望んでしまった結果でした」
「いいや、魔法の配分について話していなかった私にミスもある」
魔法を使う前まではこんなつもりではなかったのに……。
「どうしてあんなことをしてしまったのか」
「まあ、たまにあることだ」
魔法を使う中で、気持ちが高揚し、想定していた規模よりも大きな魔法を使ってしまうことは、魔法使いならば一度はあるようだ。
「皆、ここぞというときに、そのような過ちを犯してしまう。そうならないように、サポート用の魔法陣を用意していたんだが」
私の魔力量はヴィルの想定よりもかなり多かったらしく、サポートしきれなかったようだ。
「すまない」
「私のほうこそ、ごめんなさい」
ジェムがいなかったら大変な事態になっていたようだ。
「私達の命の恩人だ。感謝する」
ヴィルからそんな言葉をかけてもらったジェムは、誇らしげな様子でいた。
「次からは、もっと計画的に、身の丈に合った魔法を使おう」
「そうですね」
反省はこれくらいで十分だろう。
ここから先は、完成させた雪魔石を鑑賞する時間とする。
ジェムに預けていた雪魔石を出してもらった。
眩い輝きを放つ雪魔石は、本当にダイヤモンドのようだった。
「美しいな」
「ええ、本当に」
これで雪属性の杖を作る材料は揃ったのだ。
「問題は誰に作ってもらうか、だな」
「そうですね」
村には武器職人がいるので、話を聞きに行くことにした。
ラウライフ唯一の村は、三百人くらいの領民がひっそり暮らしている。
ついでにヴィルを案内することとなった。
「あちらにあるのが商店で、食材から雑貨までなんでも売っています」
ただ商品の欠品が多く、商人に直接頼んだほうが欲しい物は手に入るのだ。
「向こうにあるのが、食堂兼宿屋です」
どちらも予約制で、突然行っても利用できない不便な施設だ。
「まあ、観光客なんていませんし、旅人も立ち寄らないような場所なので、ほとんど需要はないんですよね」
たまにやってくる商人や、領民の親戚が利用しているのだ。
そして最後に案内するのが武器屋である。
「ここは鍛冶工房も兼ねていて、他のお店に比べたら活気があるんです」
ラウライフの周辺には魔物が多く出現する上に、領民は狩猟をして暮らしている。
そのため、武器は生活に欠かせないアイテムなのだ。
「ここの鍛冶職人はみんな頑固で――」
「誰が頑固だ!!」
背後を振り返った先にいたのは、鍛冶工房のお頭であるロッコさんだ。
体が大きく、髭むくじゃらで、腕や太ももは驚くほど太い。
厳つい顔で、怖そうに見えるものの、子ども達からは〝熊おじさん〟と呼ばれて愛されている。
「ロッコさん、お久しぶり!」
「ああ、領主様のところの、ミシャお嬢様じゃないか!」
幼少期は村でクレアと遊んで回っていたので、顔馴染みなのである。
「ルドルフの野郎から婚約破棄されて、傷心旅行に行っていた、なんて噂を聞いたが、いつ戻ってきていたのか?」
「な、なんでそんなことに!?」
魔法学校に合格し、王都を拠点に勉学に励んでいたと説明すると驚かれた。
まさか傷心旅行に出ていると思われていたなんて。
酷い話である。
「それはそうと、そっちの兄さんは?」
「婚約者なの」
「ああ、そうだったか。立派な男を捕まえたんだな。ルドルフなんかよりずっといい!」
本当にその通りである。ヴィルは自慢の婚約者だ。
「して、今日はどうしたんだ?」
「少し相談があって」
「そうか。だったら中で話を聞こう」
雪属性の杖について話を聞くため、お邪魔させていただいた。