アイテム発見!
ヴィルの手のひらにある白い粒は、一見して雪にしか見えない。
けれども溶けないということは、雪ではない〝何か〟なのだろう。
世にも珍しい雪属性の杖を作るために必要な材料――スノー・ディアの角と、雪魔石、雪の砂、六花草。
そのうちの雪の砂を発見したという。
「鑑定魔法をかけてみよう」
ヴィルはすぐに魔法を展開させる。
「――見定めよ、鑑定!」
ヴィルは中級以上の鑑定魔法を使っているようで、私にも結果が見えた。
アイテム名:雪の砂
希少性:★★★★
説明:雪国で雪のある季節にのみ採取できるアイテム
「間違いないようだな」
「すごいです! よく気づきましたね」
「踏んだときの感覚が、雪とは違っていたからな」
ヴィルがいる辺り一帯がすべて雪の砂らしい。
言われたとおり踏んでみると、たしかに雪と踏み心地が異なる。
「なんとも言えませんね、このむぎゅっとした感じは」
「たしかに、喩えようがないな」
もっとも近いのはマイクロビーズだろうが、ヴィルに言っても伝わるわけがなく。
ただ、言われてみないと違和感に気付かないはず。
それくらい、雪の砂は本物の雪と相違ないのだ。
「まさかこんなところにあったとは」
「そうだな。アイテム関係の専門書には、雪深い森の奥地にあるとあったのだが」
湖の畔にあったなんて……。
ヴィルは午後から雪の砂を探しに行くつもりだったらしい。
「これで材料はすべて集まったのか?」
「概ね、ですね」
六花草はセイグリットに乗って飛んで行った先にあった、樹氷の森で発見。
雪魔石の材料となる素材、雪属性の魔鉱石は雪山課外授業のクラフトの授業で採掘。
スノーディアの角は雪山課外授業でスノーディアとヴィルが戦ったときに入手。
「雪属性の魔鉱石を雪魔石にすることができたら、すべて材料が揃います」
問題は雪属性の魔鉱石をどうやって雪魔石にするか、である。
「王立魔法博物館で雪属性の杖を見てから、いろいろ調べてみたんだが」
ヴィルと一緒に王立魔法博物館に行ったのは、冬のホリデーの最終日だ。
あれからヴィルは独自で作り方など調べてくれたのだとか。
「まず、雪属性の魔鉱石から雪魔石を作るのは、雪の属性持ちが魔力を付与するだけでいいらしい」
「そうだったのですね」
ただ私はおまじない程度の付与魔法しか使えない。
雪魔石を作るとなれば、ある程度高度な付与魔法でないと難しいのだろう。
「私にできるのか」
ただでさえ、雪魔法を暴走させた前科があるのだ。
「心配いらない。ミシャの魔法が暴走しないような魔法式を考えてある。屋敷に地下部屋などあるだろうか?」
「ええ、ありますけれど」
「そこで試してみよう」
「はい!」
そんなわけで一度屋敷へ戻り、雪魔石の製作を行うことにした。
父に頼んで地下部屋を借り、オイルランプで灯りを点ける。
屋敷で留守番していたジェムも、何をするのかと興味津々な様子でいた。
ヴィルは白墨を使って魔法陣を描いていく。
そこには私の魔力を必要な量だけ引き出す、みたいな呪文が書かれてあった。
「よし、こんなものか。ミシャ、準備はいいか?」
「はい」
雪属性のブリザード号を杖代わりにしたほうが成功率が上がるかと思ったが、今日はヴィルの制御魔法がある。そのため氷柱を固めた杖で挑むこととなった。
「ねえジェム、前に雪山課外授業で採った魔鉱石を出してくれる?」
ジェムは大きく頷くと、口から魔鉱石をペッと吐き出した。
「これが雪属性の魔鉱石か。よく見つけたな」
「ノアが協力してくれたんです」
「そうだったのか。帰ったらお手柄だったと伝えておこう」
「ええ、喜ぶと思います」
魔法陣の中心に雪属性の魔鉱石を置く。
あとは呪文を唱えるだけ。
心臓がばくばく音を鳴らしている。
大きな雪魔法を使うのは、王都に吹雪を降らせてしまった日以来だ。
大丈夫、ヴィルが傍についている。そう言い聞かせるも、緊張で頭が真っ白になりそうだった。
「ミシャ」
ヴィルが私を呼び、杖を握る手をぎゅっと握ってくれた。
「冷たくなっている」
「う……はい」
私の耳元でそっと、ヴィルは「大丈夫だ、成功する」と声をかけてくれた。
その言葉が勇気となる。
息を大きく吸い込んで――吐く。
ヴィルが手を離した瞬間、私は呪文を唱えた。
「――しんしん降る、雪よ!」




