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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
六部・一章 春のホリデー

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ソリに乗って

 久しぶりにエルクのソリを操縦する。

 上手くできるかドキドキしながら、手綱を引いた。

 エルクは雪を掻くように動き始める。

 ソリが雪上を滑る音を聞くのも久しぶりだった。

 そういえば、こうしてソリに乗るのはいつ以来だったか。

 一年以上前に、風邪を引いたルドルフを看病するため、彼の家に駆けつけたときだったか。

 そのときからリジーとルドルフが関係していたのだろう。

 ただリジーが看病なんてできるわけがなく、さらにルドルフは天涯孤独の身。

 看病くらいいいか、と思ってしまった。

 以前だったら過去を思い出して憤ることもあったが、今は心に余裕があるからなのか。

 前ほど怒ったり、心が苦しくなったりすることはない。

 ルドルフについて考えるのは時間の無駄だ、と思えるようになったのもあるのだろう。


 エルクの首に付けた鈴がシャンシャンと音を鳴らす。

 この鈴には魔物避けの力があり、雪道を安全に走ることができるのだ。


 最初に到着したのは、スノー・ベリーが自生する森である。

 ソリを止め、近くの樹にエルクを繋いでおく。


「ヴィル先輩、ここがスノー・ベリーの森です。ここにあるのはすべて、自然で育ったものなんですよ」

「そうなのか?」


 まだ実をたくさん生らしているものの、春先のスノー・ベリーは酸味が強いので、野生動物も食べないのだ。


「今のシーズンのスノー・ベリーは、たとえ砂糖で煮込んでも強烈な酸っぱさがあるんです」


 健康になりそうな味わいだが、進んで食べようとは思わない。

 ヴィルは「おいしそうに見えるんだがな」という感想を口にしていた。


「そういえばヴィル先輩も、小さな頃に酸っぱいスノー・ベリーの実を食べたとかおっしゃっていましたね」

「あったな、そんなことが」

「王都のスノー・ベリーと、ラウライフのスノー・ベリーどちらが酸っぱいか比べてみます?」

「私が食べた王都のスノー・ベリーも、相当すっぱかった記憶があるのだが」


 手を伸ばして一粒摘み取り、ヴィルに手渡す。

 一口でぱくりと食べたヴィルは、あまりの酸味の強さに顔をしかめていた。


「くっ……」

「いかがですか?」

「ここのが断然酸っぱい。野生動物も食べないわけだ」

「納得の味わいですよね?」

「ああ」


 私も久しぶりに食べてみる。うん、安定の酸っぱさだ。


「そんなわけで、このようにたくさん残っているわけです」


 スノー・ベリーの実は真冬の極寒状態でないと、甘くならないのだ。

 大半が残って落下し、雪解けと共に消えてなくなる。


「落ちたスノー・ベリーの実が種になって、どんどん木々が増えていくというわけです」

「ならば、春先に酸味が強くなるのは、外敵に食べられないようにするための生存本能なのかもしれないな」

「たしかに、そうかもしれません!」


 スノー・ベリーの森を案内したあとは、ラウライフでもっとも大きい湖へと案内する。

 そこにはすでにたくさんの領民が集まっていた。

 きんきんに凍った湖の上を歩いていたので、ヴィルは驚いた表情でいる。


「皆、何をしているのか?」

「アイス・フィッシングですよ」


 朝が早いからか、まだ釣り竿を出して垂らしている者はいない。

 頑張って穴を開けているのだろう。


「今がアイス・フィッシングのシーズンなんです」


 真冬は吹雪く日が多い上に、湖の水も分厚く凍っていて穴を開けるどころではない。

 春先は氷がやわらかくなっているので、比較的簡単に穴を開けることができるのだ。


「けっこう大きな魚が釣れるみたいで」


 父がアイス・フィッシングを趣味としているので、興味があればしにきてもいいだろう。


「ミシャの父君は忙しいのではないのか?」

「そこまで忙しくないと思います」


 忙しいのは冬の目前までで、春先は比較的のんびり過ごしている。


「では、帰るまでに行けるかどうか聞いてみよう」

「きっと喜ぶと思いますよ」


 あとはどこを案内しようか。すでにネタ切れである。

 ひとまず家に戻るか。なんて考えていたら、ヴィルが突然しゃがみ込む。


「どうかしましたか?」

「ミシャ、これを」


 ヴィルの手のひらにあったのは、白い雪の粒みたいな物。


「それは――?」

「〝雪の砂〟だ」


 雪の砂――それは私が以前から探していた、雪属性の杖作りに必要なアイテムの一つだった。

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