ラウライフの朝
翌日――朝食を済ませた私はヴィルと一緒に外に出る。
「ヴィル先輩、寒くないですか?」
「ああ、問題ない」
私達は父が用意してくれたモコモコの外套姿でいる。
ある程度魔法や魔石懐炉で体を温めることができるので必要ないように思ったものの、せっかく用意してくれたし、これも雪国体験の一つだと思って着てもらった。
まず、案内したのはエルクと呼ばれるトナカイに似た生き物を飼育する牧場である。
昼間は柵の中に放ち、夜はエルク舎の中でゆっくり眠っていただく。
ヴィルはエルクを前に驚いた表情でいた。
「このようにたくさん飼育しているのだな」
「ええ、そうなんです」
エルフは貴重な移動手段である上に、食料でもある。
「昨日食べた燻製肉のソテーはエルクの肉だったのですよ」
「シカかと思っていたが、エルクだったのか」
王都ではエルク料理を出すお店などないので、食べた瞬間実家に帰ってきたんだ、と実感することとなったのだ。
「言われてみれば、シカよりも味わいが濃厚で、肉もやわらかかった」
「そうなんですよ」
エルク肉はシカ肉にそっくりだ、と言う人がいるものの、私からしたらぜんぜん違うと思っていたのだ。
「エルク肉はソーセージやシチューもおいしいんですよ」
きっとここ数日、滞在する中で出てくるだろう。
それを聞いたヴィルは楽しみにいていると言ってくれた。
エルク達は好奇心旺盛で、私とヴィルがやってくるとわらわら集まってくる。
人なつっこい子が鼻先を近づけてくんくんし始めたので、指先の匂いを嗅がせてからよしよしと撫でてあげた。
「思いのほか人なつっこいんだな」
「ええ、このとおり、意外と慣れます」
ヴィルも私の真似をして自らの匂いをかがせたあと、わしわしと撫でていた。
するとうっとりとした表情を浮かべている。
「うわ、こんな気持ちよさそうな顔、初めて見ました」
「そうなのか?」
「はい」
相変わらず、動物受けがいいらしい。なんて思っていたら、ヴィルの外套に白いリスが数匹しがみついていたので驚く。
「ヴィル先輩、リスが!」
「いつの間に!?」
ヴィルも気付いていなかったようで、ぎょっ! としていた。
「油断していた!」
どこからともなくムササビも飛んできて、毛皮の外套に張り付いている。
「なっ、ムササビは夜行性なのに、なぜやってきた!?」
「ヴィル先輩に接近できるのは今しかない、とか思ったのかもしれません」
「どうしてそうなる!?」
このままのんびりエルクを見学していたら、ヴィルが野生動物まみれになりそうなので、移動を開始しよう。
庭師にエルクとソリを用意しておくようにお願いしていたのだ。
「ミシャお嬢様~~、ご準備できてますよ~~」
「ありがとう!」
大きな白いエルクが、待ってましたとばかりの表情を向けている。
「移動はソリなのか」
「はい!」
ヴィルがなんとも言えない顔で私を見る。
「どうしたのですか? ソリ、苦手ですか?」
「いや、ミシャは雪山課外授業で、ソリの事故に遭っただろう? 恐ろしくないのかと思って」
「ああ、ありましたね」
ノアの相棒だったエルクが興奮状態となり、制御不可能となって崖下へゴロゴロ転がっていったのだ。
「あれは特殊な条件かでの不幸な出来事だったので、大丈夫ですよ」
この子は特別いい子で、暴走することもない。安心して乗ってほしいと言う。
「犬ソリもあるのですが、あれは私には操縦が難しくって」
父がしつけた犬達がいるのだが、やる気がありすぎて雪道を暴走するので、私はご遠慮させていただいている。
「エルクのソリはいいですよ。そこまで速くないですし」
「そうだな」
私が前に乗り、ヴィルが後方に座る。
「では出発します!」
ヴィルと一緒にソリに乗り、ラウライフ案内を開始することとなった。