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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
六部・一章 春のホリデー

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一日の終わりに

 夜になり、ヴィルと家族が食卓を囲むこととなる。


「ヴィルフリート君は魔法学校を首席で合格したようで」

「とても優秀なのね」

「さすが、ミシャお姉様が選んだ御方です!」


 一見して和やかな雰囲気に見えるものの、家族の表情がぎこちないのは気のせいではないだろう。


「いえいえ、私もまだまだです」


 ヴィルも余裕たっぷりに言葉を返しているように見えるが、内心緊張しているというのだから、本当なのかと疑ってしまう。

 私はハラハラしながら、皆の様子を見守っていた。

 夕食はレンズ豆のスープにフェンネルの酢漬けサラダ、燻製肉のソテー、スノー・ベリーパイ――と、春先の我が家にしたら贅沢な料理である。

 きっとヴィルを歓迎するために、料理人達が腕を振るってくれたのだろう。

 あとでお礼を言いに行かなければ。

 なんとか夕食を終えたあと、父がヴィルを喫煙室シガールームに誘ったものの、二人とも疲れているように見えたので、今日のところは早く寝たほうがいいと言っておく。

 すると父はヴィルに休むようにと言ってくれた。


 ヴィルと共に廊下を歩きつつ、なんとか家族を紹介できてよかった、と思った。

 部屋まで送り届けて終わりだと思いきや、ヴィルが少し話したいという。

 しばし付き合うこととなった。

 今日一日でスノー・ベリーの紅茶を何杯も飲んだので、夜は蜂蜜をたっぷり垂らしたホットミルクにしよう。

 暖炉の火でミルクを温め、カップに注ぐ。

 ミルクの温もりで指先を温めつつ、ヴィルと向かい合って座った。


「ミシャ、今日はありがとう」

「いえいえ、お礼を言わなければならないのは私のほうですよ!」


 ヴィルは私の家族に対して丁寧な態度で接してくれた。おかげさまで、婚約と結婚についても納得してもらえることができたのだ。


「実を言えば、結婚を反対されるかもしれない、と思っていたものだから」

「どうしてですか?」

「ミシャの父君に何度か手紙で結婚について触れていたのだが、何度も本当にいいのか、と確認するような内容が書かれていたから」


 ヴィルへの確認というよりは、私との結婚について改めて考えてほしい、という訴えにしか思えなかったという。

 そのような手紙を送っていたのは、父が保守的な考えを持っているからだろう。

 格上の、さらに王家に連なる名家の子息が相手ともなれば、慎重な性格の父が手放しに喜ばないであろうことはわかりきっていた。


「お父様はヴィル先輩とじっくり話してから、答えを出すつもりだったと思うんです」

「認めてもらえただろうか?」

「もちろん!」


 そう答えると、ヴィルは安堵の表情を浮かべる。


「明日はラウライフを案内しますね!」

「楽しみにしている」

「その、特に観光的な見所があるわけではないのですが」

「大自然があるだろうが」

「そうでした」


 まだ雪に覆われていて、案内しても雪です! 雪です! さらに雪です! と紹介して回るだけになるかもしれない。それでもきっとヴィルは喜んでくれるだろう。たぶん。


「それはそうと、ミシャの実家は居心地がいいな」

「本当ですか?」

「ああ、嘘は言わない」


 ヴィルのご実家に比べたらささやかな規模しかないだろうが、そんなふうに言ってもらえて光栄である。


「ここに住むのもいいかもしれない」

「ヴィル先輩がですか?」

「ああ」


 それを聞いたら白目を剥く家族の様子がありありと想像できる。思い浮かべただけでも笑いそうになった。


「ミシャは王都のほうがいいのか?」

「うーーん、そうですねえ、仕事次第ですよね」


 もしも国家魔法師になれたならば、王都を拠点にするほうがいい。

 けれどもそれ以外の仕事ならば、ラウライフを拠点にしても問題ないだろう。


「ヴィル先輩は王都ではないほうがいいのですか?」

「ごちゃごちゃしていて、気が落ち着かないからな」


 王都をごちゃごちゃしているなんて言うのは、ヴィルくらいだろう。

 まあ、いろいろあったので、静かなラウライフで暮らしたいと考えるのもわかるが。


「ラウライフも実際に暮らしてみたら、不便でびっくりするかもしれませんよ」

「たとえば?」

「吹雪で一週間近く外出できなかったり、商人が村にやってくるのが遅れて食糧不足に陥ったり」

「食糧を備蓄していればいいだけの話だろう」

「そうですね」


 雪国の過ごし方をよくおわかりで……。

 返す言葉もなく、卒業後はラウライフ暮らしか~、なんて呟いてしまった。 

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