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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
六部・一章 春のホリデー

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ジェムとクレア

 ジェムが客間に張り付いていたのは確認していたのに、一緒に付いてきているかは気にしていなかったのである。

 急いで窓を開くと、隙間からスルリと入ってきた。

 怒っているのか、赤く点滅している。


「ジェム、ごめんなさい」


 忘れていた、と言ったら怒りそうだったので、うっかりしていたことにしておく。

 ぎゅっと抱きしめて、よしよし撫でると怒りは収まったようだ。


「ミシャお姉様、もしかしてその子が、使い魔の〝ジェム〟なのですか?」

「ええ、そうなの!」

「その、スライムみたいにさまざまな形状になるのですね」


 クレアにはジェムについて宝石みたいな球状の使い魔、とだけ伝えていたので、薄く伸びたり、細くなったりする姿に驚いたようだ。


「とってもいい子なのよ」


 そんなふうに説明すると、ジェムはまんざらでもないような表情を浮かべる。


「ジェム、この子は私のかわいい妹、クレアよ」


 クレアは会釈し、ヴィルを相手にしたときよりも丁寧な態度で挨拶してきた。


「初めまして、クレア・フォン・リチュオルと申します。どうぞお見知りおきを」


 ジェムは苦しゅうない、とばかりに頷いていた。


「ミシャお姉様、ジェムさんに触れても大丈夫ですか?」

「どうかしら? ジェム、いい?」


 聞いてみると、左右から触手を伸ばしてマルを作る。


「いいみたい」

「ありがとうございます!」


 クレアはしゃがみ込んで「失礼します」と一言声をかけてからジェムに触れる。


「わっ、温かい! それにやわらかくて、すべすべしていて、触り心地がいいです」


 そうなのだ。ジェムはこの世に存在するどんな素材よりも触り心地がいい。

 絶賛されたジェムは悪い気はしなかったようで、もっと触るといい、と言わんばかりにクレアに接近していた。

 クレアも満足するまでジェムと触れ合ったようだ。


「ジェムさん、ありがとうございました!」


 ここまでジェムが気を許してくれるとは思わなかった。寛大な心で接してくれたジェムに感謝する。


「ああ、そうだわ。お土産もあるのよ」


 春のホリデーになったら渡そうと、買っていた物である。


「ジェム、出してあげて」


 頷いたジェムは、ペッと吐き出すように箱を出した。


「まあ! ジェムさんには収納力もあるのですね」

「ええ、そうなの」


 容量がどれだけあるのかわからないが、私はかなりの私物をジェムに預けている。


「旅行用の私物も、ジェムが呑み込んでしまって」

「すばらしい能力ですね」


 と、話が逸れてしまった。改めてお土産をクレアへ手渡す。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 クレアはわくわくした表情で、箱に結ばれたリボンを解く。

 中に入っていたのは春用のワンピースだ。

 フリルとレース、リボンがふんだんにあしらわれた一着で、見た瞬間、クレアに似合うと確信したのである。

 クレアはキラキラした瞳でワンピースを手に取り、うっとり顔で眺めていた。


「とってもかわいいです!」

「よかった」


 もしかしたら背が伸びているかもしれないと思って、少し大きめのサイズを購入したのだが、クレアの体に当ててみるとぴったりだった。


「雪が溶けてスノー・ベリーの花が咲いたら、そのワンピースを着て、婚約者のマリスと一緒にお花見でもしてきたらいいわ」

「はい!」


 マリスというのはクレアと同じ年の婚約者で、商家の次男である。


「そういえば、マリスは元気?」

「はい。元気過ぎるくらいで」


 クレアと一緒に貴族社会について学んでいるようだが、以前よりも活き活きしているという。


「もともと、お父様がしている仕事に興味があったみたいで」

「そうだったの」


 マリスにとって、リチュオル子爵となるクレアを支えることは大変だったのではないか、と思っていた。けれどもそんなことはなかったようで安堵する。


「私も立派なリチュオル子爵になれるよう、頑張っていますので」

「クレア、ありがとう」


 こうしてクレアが家を継いでくれるので、私は魔法学校に通えるのだ。

 深く感謝したのは言うまでもない。

 

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