帰宅
前回ヴィルと共に訪問して以来、実に四ヶ月ぶりの実家である。
たった数ヶ月しか経っていないのに、懐かしく感じてしまうのが不思議だった。
家族はみんな元気だろうか。わくわくした気持ちを胸に抱いての帰宅となる。
我が家は敷地だけは広いので、セイグリットも場所を選ばずに着地できた。
屋敷の前に下りると地面の雪が舞い上がる。
着地の振動で屋根や木々に積もっていた雪もドサドサ落ちてきた。
若干屋敷全体も揺れたからか、誰かが慌てた様子で外に出てくる。よくよく見たら、父だった。
「いったい何事――こ、これは!?」
初めて目にするであろうセイグリットを目にした父は、目を丸くしていた。
「お父様、私よ!」
「ミシャなのか!?」
「ええ、ただいま!!」
ジェムが先に下りて着地用のクッションに変化したので、そこをめがけて飛んだ。
父はさらにギョッとしたが、無事、下り立ったのを確認すると大きなため息を吐いていた。
続けてヴィルも下りてくる。
それに気付いた父の表情に緊張が走った。
「ヴィルフリート君、久しいな」
父の言葉に対し、ヴィルは深々と頭を下げた。
「リチュオル子爵、急な訪問を許していただきたく」
「は、はあ、これはどうも丁寧に……」
父はしどろもどろと挨拶を返していた。
「予定が早まったと連絡してから訪問したかったのですが」
「まあ、そうだね。春のホリデーはもう少しあとだと聞いていたから」
「いろいろあったの」
魔法学校での騒動は、北の最果てであるラウライフにまでは届いていなかったらしい。
「いやはや、立ち話もなんだから、部屋で話そうではないか」
「お邪魔します」
そんなわけで、ヴィルと共に客間へ向かうこととなった。
父は母や妹クレアに私の帰宅を報告するというので、しばし待っておくようにと言われる。ジェムはラウライフの景色が珍しいからか、窓に張り付いて外を眺めていた。
父の足音が聞こえなくなると、隣に座っていたヴィルは「はーーーーー」と深く長いため息を吐く。
「ど、どうしたのですか?」
ヴィルにとって雪深いラウライフは再訪だが、春の積雪に驚いたのかと思ったが違った。
「いきなり父君が現れたから驚いた。まだだろうと思って、完全に油断していた」
たしかに、私も父が様子を見に来たので驚いた。
普通の屋敷であれば、異変があった場合まず使用人が出てきて確認するだろうから。
「うちの使用人は最低限しかいなくて、その上、父は一日中動き回って働くような人ですので、あのように偶然すぐ外に出られるような場所にいたのでしょう」
「そうだったのだな」
屋敷の最深部でどっかり構えているような、ヴィルの父であるリンデンブルク大公とは真逆の存在なのだ。
「とても緊張した。失礼など働いていなかっただろうか?」
「ぜんぜん! とっても丁寧に接していましたよ」
「そう見えたのならばよかった」
いつものヴィルにしか見えなかったのだが、かなり動揺していたようだ。
「緊張するような親ではありませんので、どうか気楽に接してください」
「ミシャの父親相手に、そんなことできるものか」
「どうしてですか?」
「嫌われたくないし、あわよくば気に入られたいと思っているからだ」
「そ、そうだったのですね」
そんなふうに思ってくれていたとは気づきもせず。なんだか嬉しくなる。
「ミシャ、よければなんだが、母君や妹君についても知りたい」
前回も挨拶したものの、軽く行う程度だったので、しっかり知っておきたいという。
「いいだろうか?」
「はい、喜んで!」
母は柔軟性があって、社交好きで、領民とも気さくに会話している。貴族女性としては珍しいタイプだろう。
「母は父と違ってどっしり構えているタイプで、性格に裏表もありませんので、身構えるような相手ではないと思います」
妹クレアは私よりもしっかりしていて、両親のいいところ取りみたいな性格である。
「クレアはもしかしたら、少し生意気な態度を取るかもしれません」
「楽しみにしておこう」
そんな会話をしているうちに、両親とクレアがやってきたようだ。




