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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
六部・一章 春のホリデー

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ラウライフへ

 ヴィルは私から貰った雪のお守りアミュレットをよほど気に入ったのか。ラペルピンに細工して、胸に付けてしまった。

 雪の結晶のモチーフは錬金術の体験学習のさいに作った、銀擬きイミテーション・シルバーで自作したものである。ヴィルの胸を飾っていいものではないのだが……。

 まあ、いい。行く先はきらびやかな社交界ではなく実家だ。

 皆、私が作った残念なお守りアミュレットに気付いても、見て見ぬ振りをしてくれるに違いない。


「ミシャ、いこうか」

「はい」


 セイグリッドが踏み台にと差しだしてくれた尻尾に足をかけると、ふわりと背に導いてくれる。腰掛けるとすぐさまジェムも続き、シートベルト状に変化した。

 ヴィルも騎乗すると、すぐに出発となる。


 ふわりと浮上し空へと登っていくと、心地よい暖かな春風が頬を撫でる。

 高度が上がっていくにつれて、セイグリッドの結界が展開される。上空は気圧が低く、セイグリッドが飛行する高度はマイナス三十度くらいだという。そんな寒さから私達を守ってくれるのだ。


「ミシャ、寒くないか?」

「セイグリッドのおかげで、快適です」

「そうか、よかった」


 このくらいの高さを飛べる魔物はめったにいないらしい。


「いたとしても、かつて魔王と呼ばれていた邪竜くらい――すまない」

「いいえ」


 普段であれば魔王となんて出会うわけがない、と笑い飛ばしていただろう。

 けれども先日、魔王の封印がうっかり解けかけてしまった。

 魔王の存在はあっという間に身近なものになっていたのだ。


「それはそうと、陛下のお食事について、本当に毎日ラウライフまで取りにいらっしゃるのですか?」

「ああ、そのようだ」


 竜騎士隊という、ワイバーンを使役する騎士がラウライフまで国王陛下の食事を受け取りにやってくるというのだ。


「はあ、往復で十時間もかけてきていただくなんて」

「ワイバーンは竜よりも身軽だから、十時間もかからずに行き来することが可能だろう」

「そうなのですね」


 一応、一週間分くらいはヴィルと一緒に作り置きしている。冷凍保存され、食べる前に解凍しているようだ。

 それ以降は竜騎士がラウライフまで取りにやってくるので、せっせと作らなければならない。


「ホリデー中だというのに、仕事をさせてしまって申し訳ないのだが」

「いえいえ、名誉あるお仕事ですので、張り切って調理させていただきます」


 順調に快方に向かっているようなので、もうひとふんばりなのだろう。

 それからヴィルと会話が尽きることなく、一回目の休憩場所に下り立った。そこはセイグリッドお気に入りの湖のほとりで、澄んだ水が美しい場所である。

 出発から三時間ほど。ほどよくお腹も空いてきた。

 前日にヴィルがお弁当を作ってくれると言っていたので、楽しみにしていたのだ。

 ヴィルはすっかり慣れた様子で敷物を広げ、セイグリッドの荷鞍にぶら下げていたバスケットから料理を取りだす。

 一品目はエビとクリームチーズ、アボカド、ディルにオリーブオイルで作ったドレッシングを和えたものを、アボカドの中身をくり抜いた皮を器に見立たものに装い、カップサラダにしていた。

 二品目はナッツの香りが香ばしい、キャロットラペ。

 三品目は刻んだタイムを混ぜたパン粉で作る、白身魚のフライ。

 四品目はバゲットと手作りの薬草チーズディップ。

 オシャレな盛り付けと健康的な品目、かつおいしそうな見た目――完璧なお弁当である。

 あまりにも上達しすぎて、ヴィルのほうが腕前が上になっているだろう。料理を教えたのは私だ、などと恥ずかしくて言えなくなっていた。

 料理は当然のごとくどれも絶品。お店を出してもいいくらいのおいしさだった。

 デザートのチーズタルトもお腹いっぱいだったのに、ぺろりと食べてしまった。

 普段はこんなにたくさん食べないのに、ヴィルが作った料理はモリモリいただいてしまう。

 以前、ヴィルが私の専属料理人になりたいなどという冗談を言っていたのだが、それが実現したら私はあっという間に太ってしまうだろう。

 考えただけでゾッとしてしまう。

 再度、言い出すようなことがあれば絶対に阻止しなくては、と思ったのだった。


「ミシャ、どうした?」

「いいえ、なんでもありません」


 追求から逃れるために、料理を作ってくれたヴィルに心から感謝したのだった。

 

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