荷造りをしよう!
ミュラー男爵の屋敷から帰宅したあとは、モモンガ達の報酬となるお菓子の作り置きをしておいた。
十分な量を以前からコツコツ作っていたものの、もしかしたら滞在が延びるかもしれないので、追加で作っておく。
保存期間が長い二度焼きのビスケットに、瓶詰めしたリンゴのコンポート、飴を絡めたアーモンドに、穀物を炒って作るグラノーラなどなど。
ホイップ先生に預けて、少しずつ与えてもらう予定である。
ついでにラウライフに移動中にヴィルと食べるお菓子も作ろう。
家にある食材はジェムに預けているから悪くならないけれど、このさい使い切ってしまおうと思って、張り切ってお菓子の量産をしたのだった。
◇◇◇
明日からしばらくラウライフに里帰りすることになる。春のホリデーは校内の修繕があるため、一ヶ月近くあるのだ。
ラウライフにいる期間は決めていないが、ヴィルと一緒に王都に戻るか、残って滞在するかは悩みどころだ。
着替えなどはあるので荷物は宿題や魔法書などの教材、着慣れた下着など必要最低限の品を鞄に詰め込んでいたら、ジェムがやってくる。
不思議そうに鞄の中を覗き込んでいた。
「あのねジェム、明日から私の故郷に帰るの。とっても雪深くて、寒い地域なのよ」
ジェムはわかっているのかわかっていないのか、チカチカと発光していた。
「雪の量にジェムは驚くかもしれないわね。でも春になりつつあるから、雪は三分の一くらい解けている状態かしら。それでも一面真っ白なのよ」
そもそも、私に召喚される前のジェムはどこにいたのか。聞いてみると、私の胸に飛び込んできた。勢いがあったので倒れそうになるも、なんとか耐える。
こんなふうにジェムがくっついてくるのは珍しい。何か伝えようとしているのか。
まったくわからないものの、愛おしく思って抱きしめる。
「これまであなたにはたくさん助けられたわね」
いつもいつでも、ジェムが力を貸してくれた。私一人では乗り越えられなかったことばかりだっただろう。
「ありがとうね」
そしてこれからもよろしく。そう伝えると、ジェムはわかったとばかりに大きく頷いてくれたのだった。
ほっこりしていたのもつかの間のこと。
丁寧に鞄に荷物を詰めていたのに、できあがる寸前でジェムがすべて呑み込み、一瞬で収納してしまう。
「ちょっ……せっかく荷造りしたのに」
でも、セイグリッドに乗って移動するのならば、荷物はジェムに預けたほうが負担にならないのかもしれない。
「一時間くらいかけていたんだけれど、まあいいか」
ジェムを撫でて、ありがとうと感謝の気持ちを伝えた。
翌日――ラウライフに帰る朝を迎えた。
気持ちのいい晴天が広がっている。
鳥の鳴き声で起こすサブスク契約については、一時的に解約しておいた。
魔法学園の敷地内は鳥の餌になるような木が豊富にあるので、お腹を空かせることなどないだろう。
朝食はパンにジャムを塗っただけの、簡単なもので済ませる。
制服姿をみたいと言われていたので、着て帰ろう。
魔法学校の外套は寒さからも守ってくれるので、最適な格好かもしれない。
ラウライフに行くには馬車で片道十日間もかかる。山々を越えて移動するので、どうしても時間がかかってしまうのだ。
もともと春のホリデーは一週間しかなかったので、帰る予定ではなかった。
けれどもヴィルが使役する竜セイグリッドに乗ったら休憩時間を含めて十時間ほどで到着するという。
数時間で実家に帰ることができるなんて、ありがたいとしか言いようがない。
迎えにきてくれたヴィルは制服姿の私を見て、朝から先生に呼びだしを受けたのではないか、と思ったようだ。
「家族が制服姿を見たいと言っていたので、着て帰ろうと思いまして」
「そうだったのだな」
ヴィルはフロックコートを着ていたが、その格好ではラウライフの寒さをしのげないかもしれない。
「ヴィル先輩、これを」
寒さをしのげるように、雪の加護を付与したお守りを作っておいたのだ。
作ったと言っても、雪模様のモチーフがついた飾りに雪魔法の祝福を与えただけである。
「これがあれば、寒さから守ってもらえますので」
「わざわざ用意してくれたのか?」
「はい」
「ミシャ、ありがとう」
ヴィルは感極まったように言ってくれる。
「家宝にしよう」
大げさなことを言っていたので、聞かなかったことにした。