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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
六部・一章 春のホリデー

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ジェムの暴走

 ぎょっ、どころではない。

 ぎょぎょぎょ!!!! くらいの勢いで驚いてしまったものの、悲鳴はごくんと呑み込んだ。


 あろうことか、ジェムはエアの手に魔宝石をころりと転がすように渡したのだ。


「あ、これ、母さんから貰った魔宝石だよな? きれいに磨いてくれたのか?」

「あ――そうなの!」


 以前まではくすんでいた色合いだったものの、王家の家紋が浮かび上がってからというもの、エメラルドのように澄んだ輝きを放っていたのだ。


「あれ、これ、なんか模様が浮かんでいるような」

「エアさん、そちらの品はいったいなんなのですか!?」

「ん? 母さんから貰った魔宝石だけれど」

「あの御方が、こちらを所持していたのですか?」

「そうそう! 母さんが世話になった人がいたら渡してくれって言われていたんだ」

「見せてもらえますか?」

「ミシャ、いいか?」

「え、ええ……」


 ミュラー男爵が手に取ろうとした瞬間、ジェムがサッと取り上げてしまう。そのまま口の中へと放り込み、収納してしまった。


「ちょっとジェム、ミュラー男爵に渡しなさい」


 聞く耳など持たない、と言わんばかりにジェムは薄くなった。


「ジェム~~~~~!」


 いくらお願いしても、ジェムが取りだすことはなかった。


「ごめんなさい、この子、気まぐれな子で」

「そうなんだよな~。おじさん、また今度、お願いしてみるよ」

「え、ええ……」


 にこやかだったミュラー男爵だったが、途端に眉間に皺を寄せ、険しい表情を浮かべる。


「エアさん、先ほどの魔法石はなぜ、彼女に託したのですか?」

「魔法学校の受験のときに、魔法の杖が高くて買えなくって、そのときにミシャに会ってさ。ミシャは杖を俺にくれたんだ」


 その当時、エアはミュラー男爵から魔法学校の受験に必要なお金は預かっていたらしい。けれども庶民感覚が根付いたエアは、お金はあれども高すぎて買えないと思っていたのだとか。


「だって、銅貨一枚のパンを買う金をなんとか確保して暮らすような毎日だったんだ。そんな中で、金貨一枚もする杖を買うだなんて、その当時の俺には難しいことだったんだよ」

「そう、だったのですね」


 ミュラー男爵はショックを受けたような表情でいる。


「お買い物について行けばよかったですね」

「でもおじさん、忙しかったでしょう?」

「ええ……しかし、あなたのためならば、時間はいくらでも作れましたので」


 パンの話にもショックを受けていたという。


「エアさん達をしっかり支援していたつもりだったのですが、まさかパン一つを買うのにも苦労されていたなんて……!」

「母さんがあまり金を受け取らなかったんだろう?」

「ええ……」

「それでも十分な額は渡していたと思うんだ。でも、薬代がとんでもなく高くて」


 エアの母親は体が弱かったという。薬代も相当なものだったのだろう。


「私も調査不足でした……」


 眼光鋭かったミュラー男爵だったが、すっかりしょんぼりと落ち込んだ様子でいる。

 エアのおかげで、どうやら話題を逸らすことに成功したらしい。


「あー、ミシャ達、そろそろ帰るんだろう?」

「え、ええ」

「また懲りずに遊びにきてくれよな!」

「ありがとう、エア」


 エアのおかげでミュラー男爵の屋敷からお暇することができたのだった。

 帰りの馬車でヴィルは腕組みし、何やら考え込んでいるような様子を見せる。


「ミュラー男爵はあの様子だと、エア・バーレが所持していた魔宝石については把握していなかったようだな」

「そうですね。というか、あれが王太子の証であると把握すらしていないかもしれません」


 ただエアの母親が所持していた、という点のみに反応していたような気がする。


「それがわかっただけでも、今回は大きな収穫だろう」

「ジェムのお手柄ですね」

「そうだな」


 隣に座っていたジェムをぎゅーっと抱きしめ、偉い偉いと褒めると、嬉しそうに目を細めたのだった。

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