相談
エアの名前については黙っておこう。きっとエアが私にだけ特別に教えてくれたものだろうから。
この情報を言わなくても、エアがレナ殿下の双子かもしれないという証拠は王太子の証を所持していたことと、面差しが似ていることだけでも十分だろう。
「私……どうすればいいかわからなくて……このことを素直に打ち明けたら、エアの取り巻く状況が変わってしまうのではないかと」
「大丈夫だ。心配しなくてもいい」
ただ、これを二人だけの秘密にしておく、というのは難しい話だという。
「驚かないでほしいのだが――どうやら私達が騒動を治めた様子が、校内の水晶通信を通して全校生徒に見られていたらしい」
「ええっ!? ど、どうしてそんなことを!?」
「父が……」
なんでも突然の天候悪化と禍々しい魔法陣の出現に、生徒達は混乱状態に陥ったらしい。
先生達や監督生達は皆を安全な場所に誘導したいのに、上手く生徒達をまとめることができなかったようだ。
「そのような状況で、ホイップ先生から私が上空の様子を見に行ったという報告を聞いて、会場に設置してあった水晶通信で状況を映し出し、監督生のミシャと監督生長の私が対応に当たっているから安心するように、と生徒達へ見せていたようだ」
その水晶通信のおかげで、生徒達にケガはなく、安全な場所で冷静に待機させることができていたようだ。
そんなわけで、騒動を緑色の魔宝石で抑えたところなどをしっかり全校生徒に見られていたという。
「音声はなかったようなので、ルドルフ・アンガードとの言い争いの内容や、王太子の証をエア・バーレから貰ったという話などは聞こえていなかったようだ」
それを聞いて安心する。
「水晶通信を通して見ていた者達には、私が魔法で対策を打ったようにしか見えなかったらしい。それにミシャも加担したと」
「な、なるほど」
私を連れて戻ってきたヴィルは、先生達から猛烈に何があった、何をしたのかと問い詰められた。
けれどもヴィルは私の容態を診てもらうのが先だと強く言い返し、先生達を追い返したらしい。なんというか……強い。
「その後、教師陣にはセイグリッドの力を借りてどうにかした、と言い訳しておいた」
「セイグリッドも巻き込んでしまったのですね」
「ああ。竜の力は未知数だから、それで納得してくれた」
ひとまず、ヴィルは王太子の証については黙ってくれていたようだ。
「ミシャが所持していたと知られたら、大変な騒動になることが間違いないだろうから」
私がエアを心配していたように、ヴィルも私を心配し、情報開示をしなかったという。
盛大に感謝したのは言うまでもない。
「では、ホイップ先生だけがあの魔法石が王太子の証だと気付いたのですね」
「ああ、そのようだな」
ならばホイップ先生にだけは打ち明けておいたほうがいいのでは、という話になった。
「エアとレナ殿下の関係も、お話ししておきましょう」
「そのほうがいい」
ホイップ先生は職員室か研究室に戻っているだろうと思っていたら、廊下で待ち構えていた。
「ふふ、私を仲間に入れてくれると思っていたわあ」
「さすが、私達のことをよくおわかりで」
「長年の教師の勘よお」
そんなわけで、ホイップ先生にすべてを打ち明けた。
珍しく、本当に珍しく、ホイップ先生は眉間に皺を浮かべ、難しい表情でいた。
「思っていた以上に、とんでもない事態になりそうねえ」
この情報をどうするのか、判断のすべてはホイップ先生に丸投げである。
ホイップ先生が出した答えは――。
「黙っておいたほうがいいわねえ」
レナ殿下やエア本人にも、言わないほうがいいという。
「王太子の証はジェムが持っているのが一番安全だと思うのよお」
「うう、やはりそうなりますよね」
「ええ、この子、とーっても頑固だから、絶対に他人の手に渡らないだろうしねえ」
頑固という言葉を褒め言葉だと解釈したジェムは、誇らしげな眼差しを私に向けていた。
「エアについては、うーーーーん、難しい話ねえ」
レナ殿下と双子であるのならば、なぜ下町で暮らしていたのか。
調べようにも、エアの母親はすでに亡くなっている。
「他に交友関係とかあったのかしらあ?」
「あ、その、エアの保護者であるミュラー男爵は、エアの母親と親交があったようで」
「あら、そうなのね」
ミュラー男爵は気難しいことで有名らしく、ホイップ先生は会えないかもしれない、と零す。
「もしかしたらエアの友達である私ならば、会ってくれるかもしれません」
一度面会に行って話を聞いてみたい。
「私も共に訪問しよう」
「ヴィル先輩、いいのですか?」
「ああ」
そんなわけで、次なる課題ができた。




