真実に触れる
ホイップ先生は信用できる。けれども私が話したことによってエアに迷惑をかけたらどうしよう……。
そんな不安に襲われる。
「どうしたの~?」
「えっと……その……」
素直に言うべきか、適当にその辺で拾ったと言うべきか。
心の中で頭を抱えていたら、扉がトントントン、と叩かれる。
「どなたかしらあ?」
「ヴィルフリート・フォン・リンデンブルクです」
「あら、ちょっと待っていてねえ」
ヴィルが宿舎までやってきたようだ。
ホイップ先生が私の髪を櫛で整えながら、耳元で「あなたが目覚めたときに、彼に連絡したのよお」と事情を打ち明けてくれた。
今になって、制服から寝間着に着替えさせられていることに気付く。
肩にショールをかけるとホイップ先生は「これで大丈夫ねえ」と言ってからヴィルの入室を許したようだ。
ヴィルは入ってくるなりホイップ先生に一礼すると、私のもとへ駆けてくる。
「ミシャ、大丈夫だったか?」
「はい、この通りケガもなく」
「よかった……」
なんでもあのあと魔法医の診断を受けたものの、異常なしと言われたようで、原因不明の昏倒と言われてヴィルは盛大に心配していたという。
目がギンギンで血走っていた。もしかしなくても、あまり眠れていないのだろう。
「ミシャ、昨日の魔法石だが、ジェムに預けておいた」
「そ、そうだったのですね~」
ここでジェムが緑色の魔宝石を口の中から取りだして、サッと目の前に差しだしてくれた。
昨日、突如として浮かんできた王家の家紋は消えることなくしっかり刻まれている。
ホイップ先生はそれを見た瞬間、嬉しそうに言った。
「あら~、やっぱり間違いなく王太子の証じゃないの~」
「やっぱり、そうなんですね」
昨日、この魔宝石が魔法の封印をかけ直してくれたのは夢なのではないか、などと思って現実逃避していた。ホイップ先生に詳細を聞かれても、集団幻覚だろうと言い聞かせていたのだ。
けれども魔宝石に刻まれた王家の家紋が、昨日の出来事は現実だったのだと教えてくれた。
「どうしてこの魔法石をエア・バーレが所持していたんだ?」
ヴィルに問われ、ホイップ先生のときと同じように言葉に詰まってしまう。
ただ、この問題は一人で抱え込んでいいものではないだろう。
「私は席を外したほうがよさそうねえ」
ホイップ先生はそう言い、私が反応する前に出て行ってしまった。
二人きりになると、ヴィルが私の手を握る。
「ミシャ、何か知っているのならば教えてくれ。何を聞いても、私はミシャの味方でいるから」
その言葉は大きな勇気となる。
「わ、わかりました」
誰にも言わないでほしい、とはお願いできない。
場合によっては、他の人にも相談しなければならないような出来事だから。
「実はこの魔法石はその、魔法学校の受験期間に、エアからお守りとして受け取った物だったんです」
「もともとはエア・バーレが所持していたということで間違いないのだな?」
「はい」
「なぜ、彼はこれを?」
「わかりません。ただ、ルドルフと同じように、エアも亡くなった母親から受け取ったと話していました」
見た目はなんの変哲もない魔宝石にしか見えなかったので、私もジェムに出されるまで存在を忘れていたのだ。
「その、エアやエアの母親が王家から盗んだとは思えず……」
「だろうな。本来であれば厳重に保管されて、管理者である国王夫妻と継承者である王太子しか目にするはずもない品だろうから」
それがどうして、エアの手に渡っていたのか。
「エアはこれが重要な品だとわかっていないようでした」
「わかっていたら、感謝の印として渡さないだろうからな」
ヴィルは腕組みし、うーーーんと唸る。
「以前から気にはなっていた」
「何がですか?」
「エア・バーレとレナハルトの面差しが少しだけ似ているという点についてだ」
「……」
言われてみれば私も一度だけ、雪山課外授業のときだったか。エアとレナ殿下を見間違えたことがある。
二人が似ている点と、エアが王太子の証を所持していた件について考えていたら、ふと思い出した。
以前、エアが本当の名前を私に教えてくれていたのだ。
――ミシャ、あのさ、俺の本当の名前は、エアハルトって言うんだ。
エアハルトとレナハルト。
まるで、双子につけるような名前であった。
「もしかしてエアとレナ殿下は――双子!?」
私の言葉に、ヴィルは重々しい表情を浮かべながら頷いた。




