緑色の魔宝石
いったいどうして、エアから貰った緑色の魔宝石から王家の紋章が浮かび上がったのだろうか?
「ミシャ、これは?」
「エアから貰った物なんです」
「それがなぜ、このように――」
ヴィルが緑色の魔宝石に触れた瞬間、一筋の光が上空の魔法陣へと伸びていく。
「なっ!?」
それは悪を貫く槍のように、暗黒色の空を貫いた。
曇天が割れる。
禍々しい魔法陣が光に包まれ、その輝きは地上を打つ雷からも守ってくれた。
しだいに緑色の魔宝石からも眩い光を放つようになり、目を開けていられなくなる。
手の中にある緑色の魔宝石も、熱を持つようになっていた。
くらくらと目眩も覚える。
ただセイグリッドの背に立っているだけだったので、ここで気を失ったら真っ逆さまだ。
「ううっ――!」
ぎゅっと目を瞑る私を引き寄せてくれたのはヴィルの腕。それからジェムの触手だった。
二人に支えられ、なんとか立っていられた。
どれだけ耐えていたかわからない。けれども光が収まって瞼を開くと、青空が広がっていて驚く。
「ヴィル先輩、魔王は?」
「どうやら復活を防ぐことができたようだ」
それを聞いて緊張の糸がプツンと途切れたようで、私の記憶はそこで途絶えていた。
◇◇◇
「ううん――」
「お目覚めかしら~?」
ホイップ先生の声で意識が一瞬でクリアになる。
「あ……」
「おはよう、いい朝よお」
ホイップ先生はカーテンを広げてくれる。太陽が上がったばかりの、爽やかな晴天が広がっていた。
続けてジェムも私の顔を覗き込んでくる。大丈夫か、と問いかけるような眼差しを向けていた。安心させるように撫でると、安堵したような淡い光を放つ。
ホッとしたのもつかの間のこと。知らない天井だった。
「ホイップ先生、こちらはどこなのですか?」
「教員の宿舎よお。保健室は負傷者が運び込まれていたから、ここのほうが落ち着いて眠ることができると思ってねえ」
私は上空で気を失ったらしく、ヴィルの手でホイップ先生のもとに運ばれたらしい。
「昨日は大変だったの~。魔王が自身の封印を解こうとして放たれた雷撃によって、魔法学校の敷地内が大騒ぎで」
生徒や保護者を安全な場所へと誘導していた教師数名が負傷したという。
「でも、けが人は教師だけでいずれも軽傷だから、そこまで心配しなくてもいいわあ」
被害は最小限に抑え込んだようだ。
「具合はいかがかしらあ?」
「ええ、平気です」
というか、私は何もしていない。大変だったのはヴィルのほうだろう。
「あのあと、魔王の復活を阻むことができたのよお」
「そうだったのですね。よかったです」
魔法学校内には強い結界があるので、被害も敷地内のみに押さえ込むことができたらしい。
にこにこ話していたホイップ先生だったが、急に真顔になる。
「それで、あなた達はいったい何をしてくれたのかしらあ?」
「私は何もしていません」
「でも、彼があなたのお手柄だと話していたわ」
「私、ですか?」
「ええ、そうよお。王太子の証をあなたが所持していたなんて、驚きだったわあ」
「!?」
心臓が口から飛び出そうになる。
「ホイップ先生、今、なんとおっしゃいましたか?」
「王太子の証を持っていたのはミシャ、あなただったのよお」
「いえいえいえ! 私はそんなたいそうなお品を所持しておりません!」
「緑色の魔宝石の持ち主はあなただった、とヴィルフリートが言っていたけれど」
「あ――!」
たしかに、あれは私が所持していた品だ。
「しかしあの品は……」
もともとはエアが持っていた品である。なんて言っていいものなのか。
ばくん、ばくんと胸が嫌な感じに脈打っていた。




