黒いダイヤモンドを探して
私とヴィルが発見した反応、どちらを探すかという話になった。
ヴィルの審検魔法の範囲は十五エーカー、一方で私の審検魔法の範囲は三エーカーくらい。非常に狭い範囲の中で発見した強い魔力反応である。
「ここには強い魔力を保有する植物もあるでしょうから、私のほうはあまり信用ならないかと」
「私のほうはここから遠すぎる。強い風が吹いていたとはいえ、そこまで飛ぶだろうか疑問だ」
ヴィルは私のほうが近いから、先に探したいと言う。
「時間の無駄だと思うのですが」
「私はミシャを信じたい」
「ご、ご自身を信じてください」
ならば同じ範囲を審検魔法で調べてくれないか、とお願いしてみる。
「わかった。やってみよう」
ヴィルはすぐに魔法を展開する。しかしながら、納得できないとばかりに首を傾げていた。
「ヴィル先輩が発見したものよりも、反応は薄かったでしょう?」
「ああ……」
これで納得してくれたかと思いきや、その現場に向かいたいと言い出す。
「あの、ヴィル先輩、お調べになりましたよね?」
「そうだが、私の勘がミシャを信じろと――」
突然、空からゴロゴロという音が聞こえ、雷のようなものが雨のように降り注ぐ。
「ミシャ!!」
ヴィルは私を引き寄せ、外套の中に隠すように守ってくれる。
轟音が鳴り響き、すぐ近くを直撃したようだ。
「――っ!」
ヴィルが防御魔法を展開していたようなので、私達に被害はなかった。
けれども地面は大きく捲れ上がり、もくもくと煙が立ちこめている。
「もう復活も間近というわけか」
「ヴィル先輩!」
「ミシャ、魔力反応があった場所へ導いてくれ」
まっすぐな瞳でヴィルは言う。
これ以上抗えるわけなどなく、私はもう一度審検魔法を展開させ、詳細を調べることにした。
「一回目はざっくり調べただけなんです」
「ざっくり?」
「ええ、地上に地中、それから天空と――」
「待て。ミシャが調べた範囲は地上だけではないのか?」
「はい、すべて調べました」
なんでもヴィルは地上に限定して審査魔法を展開させたようだ。
「そのように一度に三次元を調べることができるなど、初めて聞いた。普通はできることではない」
「そ、そうなのですか?」
「ああ」
ヴィルでも難しいという。そうとは知らずに審検魔法を使っていたのだろう。
そんなことはさておいて。話をしている場合ではない。
「ヴィル先輩、まずは天空を調べてもらえますか?」
「ああ、そうだな」
もしかしたら鳥が偶然持ち去ったとか、木に引っかかっているとか、いくつか可能性があるのだ。
ヴィルが調べた結果、ハッとなる。
「反応がありましたか?」
「セイグリッドだ」
「え!? その、セイグリッドやジェムの魔力に反応しているわけでなく?」
「ああ、生きている者は除外しているからな」
だったら、ルドルフは落としたとか言って、実は所持していたのかもしれない。
「急いで戻りましょう」
ただ、自分で言っておいてどうやって? と思ったのと同時に、ヴィルが私に外套をふわりとかけながら言った。
「ミシャ、しばし耐えてくれ」
そう言って私を外套に包み込むと、体が横抱きにされる。
いったい何を――と問いかけようとしたら、歯を食いしばっておくように言われた。
次の瞬間、体がふわりと浮かんで、ロケットのように上空へと飛び上がった。
「~~~~~~~~!!!!」
ヴィルは浮遊魔法で最大速度を出し、セイグリッドのもとへと戻ったようだ。
すぐさまルドルフへと問いかける。
「おい、ルドルフ・アンガード!! 先ほどの宝石、実はどこかに隠し持っているだろう!?」
「いやいや、持っていないよ。このとおり、拘束されているから、自由なんてないし!!」
「だったらどうしてここから高い魔力反応が――」
ヴィルがそう言いかけた瞬間、ジェムがモゾモゾ動き始める。口から何か取りだしたようだ。
そっと目の前に差しだされたそれは、以前エアから貰ったくすんだ緑色の魔宝石。
「こ、これは、エアの……」
「ミシャ、高い魔力反応はこれだ」
ヴィルが触れた瞬間、緑色の魔宝石は眩い輝きを放ち――つるりとした表面に王家の紋章が浮かび上がった。
「え!?」




