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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
五部・五章 ついに迎えた馬術大会!

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空へ

 セイグリッドは私を見るなり、『みぃ~~~~!』と愛らしい声で鳴く。


「まあセイグリッド、久しぶり」


 顎の下を撫でてあげると、心地よさそうに目を細める。

 これから恐ろしい魔法陣に接近するのだが、怖かったらすぐに引き返すように言っておく。すると、了解したとばかりに『みっ!』と短く鳴いて返す。

 セイグリッドとのやりとりにほんわかしていたら、背後から猛烈な視線が突き刺さっていることに気付いた。

 振り向いた先にいたのは案の定、ジェムである。セイグリッドではなく、なぜか私を睨んでいた。どうしてジェムではなくてセイグリッドを可愛がるのか、と言いたいのだろうか? ジェム心わからず……。


「ジェムも頑張りましょうね」


 何を頑張るのかわからないが、そう言って撫でてあげると機嫌は即座に直ったようだ。

 なんというか、単純な子でよかった。


 ヴィルが背中に跨がり、手を差し伸べてくれる。

 ありがたく手を掴んで、彼の前に腰を下ろす。続けてジェムもセイグリッドの背中に乗り、私が上空で落ちないよう、シートベルトのようなものに変化してくれた。


「ミシャが落ちないように支えておこうとしたら、私をけん制するようにジェムが飛び込んできた」

「ごめんなさい、ジェムは嫉妬深くて」


 今に始まった話ではない上に、これまでヴィルも何度かそういう様子を見てきていたのだが、ここまでするのか、と新鮮な気持ちで驚いたという。重ねて謝罪しておいた。


 だんだんと空の色がおかしくなっていく。

 気持ちがいいくらいの晴天だったのに、夕焼けのように染まりつつある。

 いいや、夕焼けというよりは血で染めたような気持ち悪い色と表現したほうが正しいだろう。

 今にも嵐が訪れそうな強い風と曇天が広がっていく。


「――っ!」


 ぞくっと肌が粟立つ。

 それは上空を飛行することによる寒さというより、嫌な予感のように思えてならなかった。


「なんだ……?」


 ヴィルがぽつりと零した言葉を聞き逃さなかった。


「どうかしたのですか?」

「いや、ルドルフ・アンガードが裏門に向かって走る姿を発見したものだから」


 あまり覗き込むと落ちてしまうので、恐る恐る地上を見る。すると、ヴィルが言っていたとおり裏門に向かって走る人の姿が発見できた。ただ空の上から見ると、辛うじて人間がいるようにしか見えない。


「その、よくあれがルドルフ先生だと気づきましたね」

「ああ、あの男は危険人物として〝印付けマーキング〟していたからな」


 ヴィルの目には忠告するように赤くチカチカ光っていたという。


「しかし、あのように慌てて走って、何事だ?」


 混乱に乗じて逃げているようにしか見えない。


「怪しいですね。捕まえます?」

「そうだな。しかし、どのようにして捕獲しようか」


 近くにセイグリッドが着陸できそうな開けた場所などない。戻るとしたら校庭だろうが、そこまで引き返したらルドルフを逃がしてしまいそうだ。

 どうしたものか、と思っていたら、ジェムが突然行動を起こす。

 釣り竿のように細長く伸びたかと思えば、釣り糸を海に放り投げるようなモーションを取る。

 ジェムは糸のように細く伸び、逃げるように走るルドルフの体に巻き付いた。


「あ、捕まえた!」

「見事だな」


 ルドルフの体はどんどん上空に浮かんでくる。

 ジェムに捕獲されたルドルフは完全に混乱状態にあるようで、「うわああああ!」と情けない声で悲鳴をあげていた。

 ルドルフは私達の足下辺りまで上げられ、ピタリと止まる。

 セイグリッドの背に乗せるつもりはないようだ。

 そんな彼にヴィルが声をかける。


「ルドルフ・アンガード、いったい何をしていた!?」

「ひっ!!」


 ヴィルが顔を覗き込むと、ルドルフは安堵したようだ。


「き、君はたしか、監督生プリーフェクトの……」

監督生長ハイ・プリーフェクトであり、ミシャの婚約者であるヴィルフリート・フォン・リンデンブルクだ」

「ああ……そうだったね」


 ヴィルが重ねて質問するも、ルドルフは口ごもる。


「ルドルフ先生、早く言わないと、ジェムがここから落としてしまうかもしれません」

「ひいいいい!!」


 観念したようで、ルドルフは逃走理由について打ち明けた。


「じ、実は、困ったときに、母からこれを使えと言われて……」


 ルドルフの手に握られていたのは、禍々しい黒いダイヤモンドだった。

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