報告
話し終えたあと、怒られるものだと思っていたが、ヴィルは優しく私の手を握った。
「このような問題を抱えさせてすまなかった。私がミシャを大事に想うあまり言動が激しくなるから、言えなかったのだろう?」
「まあ、それもありました」
これ以上ジルヴィードのしょうもない事情に巻き込むわけにはいかない、という想いもあったのだ。
「これからは共に悩ませてくれ」
その言葉に頷く。必ず打ち明けることをこの場で誓った。
「さて、この男はどう料理しようか」
道ばたでぐーすか眠るジルヴィードはこのままここに放置したい。けれども誰かに発見されたら大騒ぎになってしまうだろう。
「ジェム、ジルヴィード先生を呑み込んで運んでくれる?」
そんなお願いをすると、ジェムは仮面の状態から元に戻って、ジルヴィードをぱくんと呑み込む。
あまりいい気持ちにはならないのか、不快そうにぱちぱちと瞬きしていた。
「ジェムはこのようなこともできるのだな」
「ダメ元でお願いしてみました」
ひとまず、ジルヴィードはこのままジェムの中で眠っていてもらおう。
ジルヴィードが持っていた王太子の証を探すアイテムをヴィルが手に取る。
裏面には大粒のダイヤモンドが填め込まれていて、ジルヴィードが得意とする宝石魔法が使われていることがわかった。
「王太子の証がなぜ魔法学校の敷地内にあるのか……」
「ええ」
「私達でどうこうできる問題ではないから、一刻も早く報告したほうがいい」
「そうですね」
ひとまず、校長先生に相談したほうがいいだろう。
ヴィルは監督生長の特権で使える魔法巻物を使い、校長室へ移動する。けれども不在だった。
職員室を覗き込んだところ、ホイップ先生を発見した。
それ以外の教師はいないようなので、この場で訴える。
「ホイップ先生!」
「あら、どうしたの~?」
「ジルヴィード先生が私を探しにきて、特大のトラブルを投げつけてきたんです」
「あらあら」
ひとまず、ジェムにジルヴィードを吐き出してもらう。
ジェムは「うええええ」と言わんばかりの気持ち悪そうな表情を浮かべていた。
気の毒なことをさせてしまった。偉い、偉いと褒めておく。
職員室の床に投げ出されたジルヴィードだったが、いまだにスヤスヤと眠っていた。
「まあまあ、彼はいったいどうしたの?」
「実は、紛失している王太子の証を探していたそうで」
「王太子の証が紛失したですって~!?」
いつも落ち着いているホイップ先生が驚いていた。
「いったいなぜ? いつから?」
「わかりません」
「立太子の儀式の時点ではあったのよねえ?」
「いいえ、そもそもレナ殿下は王太子の証についてご存じないようでした」
さらに国王陛下は王妃が管理していると思い込み、王妃は自白魔法を使っても知らないという。そんな王太子の証が魔法学校の敷地内にあることをジルヴィードが突き止めたのだ、というところまで説明した。
話に耳を傾けるホイップ先生の表情が、事態の深刻さを物語っている。
「というわけでして」
「そうだったのねえ」
ホイップ先生は盛大なため息を吐く。
「王太子の証というのは、この国の創世にも関わるものなの~」
以前、ヴィルと一緒に国立魔法博物館で見た魔法仕掛けの絵画にも、〝未来の国王の証〟として登場していた。
エメラルドみたいな、きれいな宝石だったことを思い出す。
「それと同時に、魔王――邪悪なる竜を封じるものでもあるのよお」
「――!?」
ヴィルと顔を見合わせ、ゾッとする。
「ジルヴィード先生が王太子の証がないと、世界の危機になると言っていたんです」
「ええ、間違いないわあ。王太子の証がなければ、魔王の封印が解けてしまうから~」
「ええっ!?」
想っていた以上にとんでもない事態になるらしい。
心地よさそうにすやすや眠るジルヴィードを恨めしく思ってしまった。




