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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
五部・四章 馬術大会に向けて

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ふかふか蒸し料理

 今日も今日とてヴィル以外の料理クラブのメンバーが集まり、活動を行う。

 リンデンブルク大公も当たり前のようにいる。

 いずれ慣れるだろうと思っているのだが、今のところはぜんぜんである。

 幸いというべきか、他のメンバーはリンデンブルク大公の存在を受け入れているように見えた。最初は緊張しているように見えたノアも、今ではすっかり気を遣わなくなったのだ。それでいいのか、リンデンブルク大公……などと思いつつも、親子関係としてはごくごく普通の形なのかもしれない。

 馬術大会で販売する果物サンドについては申請が通っている状態で、材料など発注をかけている。あとは当日、鑑定魔法で問題ないか調べてもらうばかりなのだ。

 近況として、私は馬術大会に参加するヴィルの応援をしに毎日練習場へと通っている。

 私が馬術大会に参加するヴィルへ差し入れを作って持って行っている、という話をしたら、ノアが「僕も作りたい!!」などと言い出した。

 マシュマロヌガーみたいな珍しい料理を作ってみたいようなので、肉まんを伝授することにした。


「肉まんというのはふわふわの生地に挽き肉のあんを包んだ料理で、蒸して加熱をするものなんです」


 蒸す、という調理工程について、皆、ピンときていない様子だった。

 時間がもったいないので、作りながら説明しよう。

 まず、ボウルに薄力粉と強力粉、塩、砂糖、酵母にふくらし粉、水を入れ、しっかり混ぜていく。


「生地がまとまって、滑らかになったら、ね始めます」


 途中で油を加え、さらに捏ねていく。


「こんなふうに生地に照りが出てきたら、濡れた布巾をかけて発酵させる、と」


 発酵させている間に挽き肉のあん作りを行う。

 手動のミートミンサーを使って肉塊を挽き肉状にしていく。

 いいお肉だからかやわらかく、女性の腕力でも簡単に挽き肉状にできた。

 皆にも手伝ってもらい、あっという間に肉塊は挽き肉と化した。


 ボウルに挽き肉を入れ、そこに刻んだタマネギにキノコ、ショウガ、塩、コショウ、牡蠣ソースに大豆油などを入れて混ぜ合わせる。


 そろそろ発酵が終了したようなので、拳でガス抜きをしたのちに切り分けた生地を丸めていく。

 その生地を十分ほど休ませたら、挽き肉あんを包む作業に取りかかった。


「こうして生地を伸ばして、スプーン一杯の挽き肉あんを中心に載せて、こうして包んでいきます」


 皆にもしてもらったが、手先が器用なエアやレナ殿下は上手く包んでいた。

 もっともやる気のあったノアは苦戦している。その横でリンデンブルク大公が上手く包むものだから、悔しそうにしていた。

 エルノフィーレ殿下もなかなか上手くできていないようだったが、その横顔はどこか楽しそうだった。

 料理クラブは楽しんで調理することが目標なので、見栄えが悪くても構わないのだ。楽しんだ者勝ちなのである。


「ここからが蒸しに入るんだけれど」


 皆、興味津々な様子で見入っている。

 ここに蒸し器なんてあるわけがなく、今日は鍋で代用する。

 まず鍋底に水を張り、ひっくり返した陶器のカップを入れる。そこにお皿を重ね、濡れ布巾をかける。

 その上に包んだ肉まんを並べ、蓋をして蒸していくのだ。


「蒸すという工程はこのように、蒸気を使って加熱することでして――」


 貴族の食生活に蒸すという工程を経て出てくる料理なんてほとんどないだろう。

 皆、不思議そうな表情で聞いていた。

 十五分後――肉まんが蒸し上がる。

 蓋を開くと、皆「わ~~~!」と楽しげな声をあげた。


「肉まんの完成!」


 さっそく、肉まんの味見を行う。

 あつあつなので冷えるまで待っていたのだが、待ちきれないエアはすぐにぱくりとかぶりつく。


「うわ、熱っ――!!」


 はふはふと口の中で冷まし、ごくんと飲み込む。


「な、なんだこれは! 生地はふかふかしていて、中の挽き肉あんはびっくりするくらいジューシーで、おいしい!」


 それを聞いた他の人達も食べ始める。

 アリーセは頬に手を添え、うっとりとした表情で感想を口にした。


「まるで雲をちぎって作ったようなふわふわ生地で、中のあんもすばらしく、非常においしかったです」


 エルノフィーレ殿下もこくこくと頷いていた。

 皆、あっという間に食べてしまったようだ。


「この肉まんは練習ですので、二回目はみんなで協力して作りましょう!」


 ヴィルに差し入れするため、力を合わせて肉まんを作ったのだった。


 ◇◇◇


 ヴィルの馬術大会の練習も佳境に入る。最初に見たときから上手いと思っていたが、今は人馬一体となって走るような姿を見せていた。

 私は蒸したてあつあつの肉まんを持って、ヴィルのもとを訪れる。

 ちょうど休憩時間だったようで、肉まんを渡した。


「ヴィル先輩、これ、料理クラブのみんなで作った肉まんです」

「初めて耳にする料理だな」

「ええ、新作なんです。どうぞ召し上がってください」


 ノアはヴィルに直接渡したかっただろうが、馬術大会の練習は婚約者しか同行できないという決まりがあるので、私が代表してやってきたのだ。

 肉まんは冷えないように、リンデンブルク大公が魔法をかけてくれたのである。そのため、アツアツの状態を保っているのだ。


「これが肉まんか」

「ええ。中に挽き肉あんが入っておりまして、熱いので気をつけてくださいね」

「ああ」


 ヴィルは肉まんを二つに割る。すると湯気がもくもく漂ってきた。

 しばし冷気に当てて冷ましたのちに頬張る。


「む――これは、おいしい! 体が温まるな」


 春が近いとはいえ、夜は冷え込む。ショウガをたっぷり効かせているので、体もポカポカになったことだろう。


「皆にも感謝の気持ちを伝えなければならないな」

「ええ。特にノアは張り切って作っていましたので」


 同じくらいの熱量でリンデンブルク大公も肉まんを作っていたのだが、その情報を伝えるとヴィルは途端に微妙な表情を浮かべる。


「未だに父が料理クラブに参加していることが信じられないのだが」

「私もです」


 ヴィルが受け入れられないのだから、私も慣れなくて当然なのだ、と思ってしまった。

 

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