エアと購買部へ
本日もヴィルは登校日ではないので、エアと一緒に食堂で食べ、そのまま購買部へと向かった。
珍しくジェムが私達を先導するように転がっている。午後はいつも眠そうなので、このように活動的なのは珍しい。
普段よりも大きく膨らんでいるのだが、通行の邪魔になりかけている。小さくなってとお願いしても、聞く耳なんて持たなかった。
「ジェムはいつも面白いなー」
ぜんぜん面白くない! と言い返したかったものの、ジェムのご機嫌をそこねたら面倒なのでぐっと言葉を呑み込んだ。
「そういえばミシャが言っていたアイテムって、どんなふうに使うんだ?」
「私も詳しく知らないの。購買部で聞いてみましょう」
エア的にはミュラー男爵にバレずにこっそり検査したいという。そうでないと、高価なアイテムを使って調べる意味がない。
「もしも血の採取が必要だったら、無理だもんな~」
「たしかに」
そんな話をしながら購買部に到着する。
お昼休みとあって店内は賑わっていた。
「あ、今日、新しい魔導カードの発売日だったんだ」
ミュラー男爵が販売している魔導カードは大人気商品で、すでに完売している。
「昨日届いた手紙と一緒に、魔導カードが三箱も入っていたんだよな~」
「クラスの男子が聞いたら大興奮しそうな話ね」
そういえば朝から教室にいた男子がソワソワしながら、楽しそうに話をしていたのを思い出す。魔導カードの発売日だったので、浮き足立っていたのだろう。
いつもより教室が賑やかだったおかげで、私とエアはミュラー男爵についての内緒話をできたわけである。
「おお、魔菓子の新作も入荷されているな!」
「あら、本当! スライム・マシュマロですって」
「気になるネーミングだな」
と、目的が逸れてしまった。私とエアはすぐさま軌道修正を行う。
「えーっと、高価な商品はあっちのガラスケースだったな」
「ええ、そう」
すぐに目的の品は見つかった。
「げっ、金貨三枚もするのかよ」
前世での通貨に換算すると三十万円。気軽に買える商品ではない。
「これ、買う奴なんているのかよ~」
「実は人気商品なんだ」
エアの疑問に返答したのは、以前、魔法の箒を購入したときに接客してくれた、猫妖精の店員である。
品だしをしていたようで、大きな木箱を抱えていた。
「それ、週に二、三個は売れるよ」
「ええ~、なんで!?」
「目的はさまざまだ。純粋に親のどの能力を引き継いだのか気になる生徒もいるし、自分が本当に親の子なのか調べたい生徒もいるし」
エアと同じような目的でこのアイテムを使う生徒もいるようだ。
「あの、この商品って、どうやって使うのか教えていただけますか?」
「んー、いいよ」
木箱を置いた猫妖精の店員はガラスケースに手をかざす。すると魔法陣が浮かび上がり、施錠が外れた。
手に収まるほどの小さな箱には、コンパクトのようなものが入っていた。
それを開くと、中に魔法陣が刻まれている。
「使い方は簡単。ここに親子関係を調べたい人の欠片を入れるだけなんだ」
「か、欠片!?」
「切った爪とか、頭髪でもいいってことですか?」
「うん、そう」
もっと言い方があったのではないか。エアなんか怯えた表情で話を聞いていた。
「こういうアイテムって血を使って検査することが多いんだけれど、このアイテムは高価な分、気軽に調べられるようになっているみたい」
「へ~~~~~~~!」
エアにミュラー男爵から爪か髪の採取ができそうか聞いてみる。
「爪は難しいけれど、髪だったらなんとかできるかも」
馬術大会にやってくるというので、そのときに採取したいという。
ここからが本題である。私は以前、恩恵として受け取った購買部のアイテム引換券を取りだし、このアイテムに使えるかどうか聞いてみた。
「もちろん使えるけれど、こんなものでいいの?」
「ええ」
「もっといいアイテムがあるんだけれど。たとえば――」
「これにします!!」
いろいろ聞かされたら心が揺れ動いてしまいそうなので、これ以上話は聞かないことにする。
無事、精算台で手続きを終え、アイテムを手にすることができたのだった。




