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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
五部・三章 新しいことを始めよう!

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解決へ

 あれは精霊カーバンクルだろう。何やら聞き覚えのあるような声で『俺俺、俺俺俺~』と熱烈にアピールしている。どこの俺だよ、と思ったのだが、ついに名乗った。


『ジルヴィードだよ、開けて!』


 カーバンクルを介して話をしにやってきたという。窓を開くと、ぴょこんと飛び込んできた。


『生徒と先生が二人きりになるのはいろいろ問題があるから、使い魔を介して会いにきたよ』


 カーバンクルは最高に愛らしいのに、ジルヴィードの声なので若干憎らしい。

 そんなことはさておいて、ここでゆっくりしている時間はない。本題に移るように言った。


『さっきの手紙、読んだよ』

「お早いことで」

『君の調査もね』


 エルノフィーレ殿下に相談しようと思っていたものの、一刻も早く解決に導きたかったので、クレアの名誉を犠牲にレナ殿下から情報を引き出したのだ。


「もうこれで解決でいいですよね? 約束通り、王太子の証のある場所を掴んだので」

『うーーん、まあ、そうだねえ』

「あとはご自身でどうにかしてくださいな」


 ルームーン国出身の王妃殿下とジルヴィードは親戚関係にある。

 彼が言う大変なことも、王妃殿下に相談すればいいだけの話なのだ。


『そうか、王妃殿下が保管していたのか……』

「もうよろしいですか?」

『あ、ああ』


 私はカーバンクルを抱き上げると、窓の外へ逃がしてやる。

 ジルヴィード先生のところへお帰り、と声をかけるとカーバンクルはどこかへと駆けていった。


「はあ~~~~」


 ジルヴィードが持ちかけた問題のせいで肝が冷えた。

 無事、解決したと言ってもいい状況になったので、エルノフィーレ殿下にも報告しておこう。

 そんなわけで放課後、私は料理クラブのクラブ舎でエルノフィーレ殿下に打ち明ける。


「というわけで、無事解決できたんです」

「それを聞いて安心しました」


 ヴィルの記憶がなくなったこととか、レナ殿下が王太子の証を所持していない件についての情報は伏せたまま、今は王妃殿下が保管されているとだけ説明しておいた。


「国王陛下から直々に教えてもらえるなんて、よほどあなたのことを信頼しているのですね」


 おそらく国王陛下が話してくれたのはヴィルがいたからだ。けれどもヴィル本人がその件について記憶を失っているので、今は否定しないでおく。

 エルノフィーレ殿下のことは信用しているものの、ルームーン国のお方なので、すべてを打ち明けるわけにはいかないのだ。


 ジルヴィードのことはきれいさっぱり忘れて、料理クラブの活動に集中しよう。

 私達は早めにやってきていたのだが、集合時間が近づくとエアやアリーセ、ノアにレナ殿下がやってくる。

 ヴィルは馬術大会の練習があるので、今日はお休みだ。

 メンバーが全員集まったかと思いきや、なぜかリンデンブルク大公がやってきたので驚く。

 ノアも知らなかったようで、目を見開いたまま固まっている。

 話せそうにないので、私が代わりに問いかけてみた。


「あ、あの、何かご用でしょうか?」

「顧問が見にくるのはおかしなことではないだろうが」


 そうだが、前回参加しただけでも役目を果たしたと思っていたのに、まさか今回もやってくるなんて。


「今日は養育院に寄贈する菓子を作ると聞いている。しっかり調理するように」

「は、はい」


 ひとまずリンデンブルク大公のことは銅像か何かだと思うようにして、調理を開始しよう。


「今日、作るのはクッキーよ」


 バターがたっぷり使われた貴族風のクッキーは養育院の子ども達の大好物だという。

 部費で材料を購入したので、惜しみなくバターを使おう。


「まずはボウルにバターを入れて、ヘラを使ってクリーム状にしていきましょう」


 二人一組になって調理を行う。

 私とエルノフィーレ殿下、エアとアリーセ、ノアとレナ殿下ときれいに分かれることができたのだが、リンデンブルク大公もなぜかボウルを握っていた。

 どうやら調理に参加するつもりらしい。


「えーっと、理事長はお一人でできますよね?」

「ああ、初めてだが、上手くやってやろう」


 真面目な顔で言ってくれる。笑いそうになったのをぐっと我慢した。

 想定外の参加者がいたものの、気を取り直して調理開始だ。

 バターをクリーム状にしたあとは、粉砂糖、溶き卵を入れてなじませ、小麦粉とアーモンドパウダーを加えて混ぜる。生地がまとまってきたら麺棒で伸ばし、型抜きするのだ。

 クッキー作りはけっこう力のいる作業だが、みんな頑張っている。

 リンデンブルク大公は思いのほか器用で、いい感じの生地を仕上げていた。


「最後に型抜きをするの」


 クッキー型はアリーセが持ってきてくれた猫の形をしたものである。

 たくさん種類があるので、各々好きな形を選んで使っていた。

 アリーセはエアと嬉しそうに型抜きをしている。こうして見ると、お似合いのカップルだなと思ってしまった。

 ノアとレナ殿下も互いに助け合って型抜きをしていた。

 リンデンブルク大公は三つも猫のクッキー型を確保し、バリエーション豊富な型抜きをしているようだ。

 よくよく見たら指先が震えている。どれくらい力を込めていいものかわからないのだろう。

 エルノフィーレ殿下も初めての型抜きに苦労しつつも、楽しそうだった。

 エアは型抜きしたあとの生地を持て余しているようで、質問を投げかけてくる。


「なあミシャ、くり抜いたあとの生地はどうするんだ?」

「好きな形のクッキーにしてもいいわ。リザード型とかどう?」

「作ってみる!!」


 皆、それぞれの使い魔の形を生地で再現していたのだが、リンデンブルク大公は棒人間みたいな不可解な形を完成させていた。


「あの、理事長は何をお作りになったのですか?」

「子ども達」


 どうやら大きいほうがヴィルで、小さいほうがノアだったらしい。

 自分の息子達を作るとは意外だった。

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