王太子の証の在り処について
もうこれ以上ジルヴィードの問題に関わりたくない、というのが本音である。
だって、ヴィルの記憶がなくなったことが偶然だとは思えないからだ。
私は筆を執ってジルヴィードに手紙を書く。内容は例の品物はやはり王太子殿下が保管されている品のようです。国王陛下からお聞きしましたので確かな情報です、とだけ書いておく。
書き終わったあと、しかしながらこれでいいのか、と思ってしまった。
もしかしたらレナ殿下によからぬ影響があるかもしれないからだ。
「う~~~ん、う~~~~~ん」
この問題は私一人で決めていいものではない。かと言って、これ以上ヴィルを巻き込みたくないというのが本音である。
こうなったら、唯一事情を知っているエルノフィーレ殿下に相談してみよう。
翌日、レナ殿下と朝食を食べていたら悩みがあるのが顔に出ているのか、心配されてしまった。
「ミシャ、心あらずな様子だが、どうしたんだ?」
「あ……ええ……」
レナ殿下に相談するわけにはいかない問題である。
ただ少しだけ、ジルヴィードが探しているという王太子の証について話を聞きたい。
直接的には聞かずに、創作話を交えて情報を聞き出してみよう。
「実は実家を継ぐ妹が、父から与えられた〝当主の証〟を紛失してしまったみたいで、どうすればいいのか相談してきたの」
心の中でごめんなさいクレア、と謝罪しておく。
「父に言ったら勘当されるかもしれないくらい大切な品物みたいで」
「それは大変だ」
「ええ。リチュオル子爵家に代々伝わる大切な当主だけが持つ証で、絶対に失くしてはいけない品なんだけれど、怒られるのが怖くて言えないみたいで」
大切にしまっていたようだが、どこに入れたか忘れてしまった、などと打ち明けると、レナ殿下は困ったような表情を浮かべた。
「普通、大切な品ってどういうところにしまっているのかしら?」
「通常であれば金庫とか」
「自分専用の金庫を持っているの?」
「ああ、国王陛下から継承した品々を保管しているからな」
「それって、立太子の儀式のときのクラウンとか?」
レナ殿下は王妃殿下から立太子の儀式のさいに、大粒のダイヤモンドが輝くクラウンをいただいていたのだ。
「それもあるし」
「ルビーがあしらわれた笏みたいなものも持っていたわね」
「ああ。あとは宝剣とか、それくらいだな」
それを聞いて胸がどくん、と高鳴る。
どうやら金庫に王太子の証はないようだ。
あったら絶対に入れているはずだろうに……。
王太子の証について聞きたいのに、ジルヴィードが先に質問してしまっているので、私まで触れたら怪しまれる。
おそらく、レナ殿下がジルヴィードに言った「国家秘密だから話せない」というのは、話しようがない情報だからだったのだろう。
これだけ情報が引き出せたら十分だ。
「そうよね。大切な品はそれに相応しい場所に保管しているわよね。妹にはもう一度探して、それでもなかったら春のホリデーに帰るから、一緒に父に謝りましょう、って提案してみるわ」
「ああ、そうしたほうがいいだろう」
レナ殿下にお礼を言うと、「お役に立てて何よりだ」と言って爽やかな笑みを返してくれた。
レナ殿下が王太子の証を持っていないことが明らかとなった。
国王陛下は王妃殿下に預けていると言ったので、そちらを報告しよう。
さすがに王妃殿下に対してジルヴィードが個人で探りを入れることはできないだろうから。
しかしながらなぜ、王妃殿下は王太子の証をレナ殿下へ渡さなかったのだろうか。
その点は謎が深まる。
下駄箱でレナ殿下と別れ、私は監督生室でジルヴィード宛てに手紙を書いて鳥翅魔法を使って送った。すると窓のほうからコツコツ、と叩く音が聞こえる。
振り返ると額に宝石をつけたウサギみたいな生き物が私に向かってアピールしていた。




