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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
五部・三章 新しいことを始めよう!

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憂い

 その後、ヴィルはふらつくことなく、意識もしっかりしているようだった。

 念のため一時間ほど部屋でゆっくり過ごしてもらった。


「もう大丈夫だ」

「でも……心配なので先生に診てもらいましょう」


 魔法学校内には保健室の他に、風邪を引いたり熱を出したりしたさいにお世話になる診療所がある。夜間もやっているので、今から行っても診察してもらえるだろう。


「平気だと言っているのに」

「数時間とはいえ、記憶がなくなっているんです。念のため診てもらいましょう」


 ヴィルの手を握り、まっすぐ瞳を見つめながら心配なのだと訴える。するとヴィルは素直に「わかった」と言って頷いてくれた。


 診療所は学校内の居たる場所に転移ポイントが置かれている。具合が悪くなったときにいつでも転移できるようになっているのだ。

 ガーデン・プラントにも診療所へ繋がる転移ポイントがあるので、ありがたく利用させていただく。私も付き添いとして一緒に診療所へ向かった。


 診療所は白亜のレンガが積み上がった清潔感溢れる建物で、中から温かな灯りが漏れていたのでホッとする。

 中に入ると看護師さんがいて、「どうかされましたか?」と優しく声をかけてもらった。


「患者は彼なんですが、一時間ほど前に突然倒れて、数秒後に目覚めたのですが、夕方から夜までの記憶がないらしくて」


 看護師さんは「先生にお知らせしてきますので、そこの椅子にかけてお待ちください」と言っていなくなる。

 五分と待たずに診察室に通された。

 私は待っていようとしたのだが、看護師さんにご一緒にどうぞと声をかけられたので同行した。


 先生は白衣に身を包んだ六十代くらいのお爺ちゃん先生だった。

 なんでも先生は魔法医で、服を脱いで聴診器を当てずとも鑑定魔法のようなものを使って診察をすることができるようだ。

 先生はヴィルに手をかざすと魔法陣が浮かび上がる。


「ふむ……異常はないようだな」


 呪いのような悪影響を及ぼす魔法もかかっていないという。


「記憶に関しては魔法学校に在籍する生徒にはたまにあることかと」


 将来について思いつめていたり、自分に過剰に課題をかしていたり、友人のことで悩んでいたり――理由はさまざまのようだが、精神的に追い詰められた者に診られる症状だという。


「今日はゆっくり寝て、明日も無理がないようにお過ごしください」


 異常なし、ということなのだろう。

 先生に感謝の言葉を伝えたあと、看護師さんから寮に戻る転移の魔法巻物が支給される。

 ガーデン・プラント行きもあったのでありがたくいただいた。


「てっきり呪いだと思っていたのですが」

「そうだな」


 王城で王太子の証が紛失したことについて喋ることができなかったのも呪いではなかったのだろうか? てっきり関連があるものだと思っていたのに……。

 というかヴィルが記憶喪失になってしまったので、改めて説明したほうがいいのだろうか。


「ミシャ、どうかしたのか?」

「あ――いいえ、なんでもありません」


 どくんどくん、と胸が嫌な感じに脈打つ。

 この問題にヴィルを巻き込んではいけないのかもしれない。そう判断し、王太子の証についての話はしないでおいた。


「明日も何か異変を感じたら、すぐに保健室に行ってくださいね」

「大丈夫だと先生が言ったのに、まだ疑っているのか」

「だって――」


 心配なのだ。声にだせずにいたら、ヴィルが手をぎゅっと握ってくれた。


「わかった。少しでも妙だと思ったら、診察してもらうから」


 それを聞いて安心する。ヴィルが転移の魔法巻物で寮に戻ったのを確認すると、私も続いて展開させてガーデン・プラントに戻ったのだった。

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