ジルヴィードが持ちかけた話
どうせくだらないことを話してくるのだろうと思っていたのだが、想定外の申し出に驚いてしまう。
「王太子の証……?」
「そうそう! なんかこの国に代々伝わるお宝があるみたいなんだ」
「どうして私に頼むのですか? 私よりもレナハルト殿下に聞いたほうが早いのでは?」
「いやいや、聞いてみたよ。でも国家機密だからか話してくれなくってさー」
レナ殿下が隠そうとしている情報を私に探らせようとしているなんて。
「まるでミシャが密偵のようではありませんか!」
私の代わりにエルノフィーレ殿下がジルヴィードを責めてくれた。
「そもそもジルヴィードはなぜ、そのような情報を欲しているというのですか? 人助けというのは?」
「まー、いろいろあるみたいなんだけれど、詳しくは知らないんだ」
とにかく急いで探すように、と命じられているという。
「早くしないと、大変なことになるんだ」
「だったら私達でなく、サーベルト大公に報告したのちに、国王陛下へご相談するべきでは?」
私の指摘にジルヴィードはぐうの音も出ないような状況になる。
「わたくし達以外頼れないような事情があるのですね?」
「うう、まあ、そんなところなんだけれど」
ジルヴィードは胃の辺りを摩りつつ苦しげな表情を浮かべる。弱りきった姿を見せて同情を招いているつもりなのか。
「そのお話、お引き受けできかねます」
エルノフィーレ殿下はきっぱり断る。
「いや、待って。今回のは本当に見つけられないと危険な状態に陥るんだ!」
「具体的にどういうことなのかわからないので、危機感がいまいち伝わらないのですが」
本当にそのとおりだと思う。
「エルノフィーレ、そんなことを言って、父が知ったらどうなるか――」
「あなたの幼稚な脅しには屈しません!」
もしも国に居場所がないような状態まで追い込むのならば、亡命をしてこの国に止まるとエルノフィーレ殿下は宣言した。
「わかった! わかったよ! 言えばいいんだろう、言えば」
ジルヴィードはふてくされた子どものように、半ば自棄になった様子で打ち明ける。
「本当に詳しくは知らないんだけれど、世界の均衡を保つのが王太子の証と呼ばれるもので、それが今、紛失状態らしいんだ」
「なっ――!?」
それは王家側が必死になって隠している情報だという。
「レナハルト殿下はもしかしたらそれについて、本当に知らないのかもしれない」
なんでもジルヴィードがやんわり尋ねたさい、レナ殿下の反応がそんな感じだったようだ。
「次から次へと問題が……!」
「そのような問題、わたくし達みたいな者に持ちかけるものではないでしょうに」
エルノフィーレ殿下は心底呆れた様子でいた。
「下手に国王陛下に聞いてしまったら、それこそ国家間の問題になりかねないんだよ」
「しかし、ジルヴィードはそれをどこで知ったのですか?」
「風の噂だよ~」
絶対に嘘だ、と思う。
おそらくだがサーベルト大公か、ルームーン国出身の王妃殿下から聞いたに違いない。
「本当に困ったことになるんだ! 自分一人では見つけられない気がして」
「ヴィル先輩に相談してもいいですか?」
「あ~~~~~、う~~~~~ん、彼も〝なしよりのなし〟なんだけれど、まあ、今回ばっかりは仕方がないかな。口外厳禁で」
怪しさしかない依頼であるものの、彼も私との交渉を却下させたので、私もこの辺で譲歩すべきなのだろう。
一応探ってみるものの、国家機密のような情報を私達が探せるわけがないので、気休め程度に思っておいてほしいと宣言しておく。
「よかった! 一人で抱えるには荷が重たすぎて!」
「私達にも荷が重たい話だと思うのですが」
「大丈夫、大丈夫! じゃあ、頼んだよ!」
彼は風のように去って行く。エルノフィーレ殿下と盛大なため息をついてしまったのは言うまでもない。




