はじめてのクラブ活動
放課後、クラブ活動を始めるために指定されたクラブ舎に集まる。
エアとノア、アリーセと一緒にやってきたのだが、まずは広さに驚いた。
「うわ、教室くらい広いな」
「本当に」
「ここがわたくし達のクラブ舎になりますのね」
貴賓用の予備厨房とのことだが、ほとんど使ったことがないらしく、どこもかしこもピカピカだった。
ジェムは興味がないと思ったのか、スーーーっと気配と存在を魔法で消していた。
帰る頃になったら姿を現すだろうと思って放っておく。
続けてレナ殿下もやってくる。ノアが嬉しそうに駆け寄り、一緒に活動できて嬉しいと話していた。
ヴィルもやってくると、ノアは幸せいっぱいと言わんばかりの表情を浮かべ、満ち足りた様子でいた。よかったねと心から思う。
最後に登場したのはエルノフィーレ殿下と――リンデンブルク大公であった。
「父上!?」
「なぜこちらに!?」
ヴィルとノアが揃って瞠目しつつ、リンデンブルク大公を迎える。
「なぜって、私は料理クラブの顧問なのだが」
リンデンブルク大公の口から〝料理クラブ〟という単語が飛びでてくるのが違和感でしかない。というか、まさか直々にやってくるなど、ヴィルでさえも予想していなかったのだろう。
「その、エルノフィーレ殿下がリンデンブルク大公をお誘いしたのですか?」
「いいえ、ここに来る途中で偶然お会いしたので、一緒にやってきただけです」
「そ、そうだったのですね」
まさかの自主的な参加だったようだ。
「悪いか?」
そう聞かれたヴィルとノアは、揃って首を横に振る。
親子の会話がなんとも新鮮だった。
エルノフィーレ殿下は空気を変えるようにごほん! と咳払いすると、部長らしくこの場を仕切ってくれた。
「全員集まったようなので、オリエンテーションを始めたいと思います」
皆、顔見知りなため自己紹介は省略。活動についても簡単に要領よくまとめてくれる。
「活動内容によって内申点に繋がるような実績となり、就職にも有利になるようです」
それを聞いたエアは「やった!」と喜んでいた。
「料理を通して地域や国に貢献することを目指すクラブです」
そんな料理クラブの初めての活動がスモア作りだという……。
もっとなんというか、養育院への差し入れのおやつとかにしておけばよかった、と思ってしまった。
「ミシャ、作り方を説明していただけますか?」
「……はい」
スモアというのは焚き火で棒に突き刺したマシュマロを炙り、表面に焼き色がついたらチョコレートを載せたビスケットに挟むという、シンプルな一品である。
「焚き火が必要なのですね」
「ここでは調理できないのか?」
リンデンブルク大公から質問が投げかけられる。しっかりクラブ活動に参加してくるので、ここでもびっくりしてしまった。
「屋内にある火でもできますが、基本的には焚き火を囲んで食べるものですね」
「ならば焚き火をしにいくぞ」
そう言ってリンデンブルク大公は立ち上がる。まさか率先して活動に参加してくれるなんて。
焚き火の許可は取らなくていいらしい。
「私が許可をだす側だからな」
さすが、理事長様々である。
材料を持って外にでて、火が燃え移るような物がない開けた場所で焚き火作りを行う。
その辺に落ちている枝を拾い集め、エアの使い魔であるリザードに着火をお願いした。
召喚されて登場したリザードは、以前見たときよりもさらに大きくなっていた。
クラスの中でもっとも大きな使い魔となっているだろう。
そんなリザードが集めた枝に火を噴きかけると、見事に着火した。
通常であれば一生懸命火起こしをしないといけないのだが、リザードの炎は景気よく燃えてくれる。
皆、焚き火を囲んでソワソワした様子を見せていたので、まずは私が見本を見せることにした。
「こうやって棒に刺したマシュマロを炙って――」
棒をくるくる回しながら焦がさないようにして、いい感じに焼き色がついたらチョコレートを載せたビスケットに載せ、上からビスケットを重ねて棒を引き抜く。
「ビスケットを潰すようにぐっと押すと、チョコレートが溶けていい感じに」
たいしたことはしていないのに、皆「おお……!」とか「まあ……!」とか感嘆の声をあげてくれる。
冷めないうちにスモアをいただく。
ビスケットからとろとろのマシュマロとチョコレートはじわ~~と溢れでてきて、口の中が幸せな甘さに包まれる。
「うーーん、おいしい!」
それを見たエアが「俺達も早く作ろうぜ!」と誘ってくれる。
皆、恐る恐るとした様子でスモア作りを開始する。
リンデンブルク大公も真面目な顔をして、マシュマロが刺さった棒を炙り始めた。
なんとも平和な光景である。
ノアはマシュマロを焦がしそうになっていて、ヴィルは火から遠すぎてなかなか焼き色が付かず、兄弟は正反対の様子を見せていた。
一番上手にマシュマロを炙っていたのはリンデンブルク大公だったという。
エアは火の中にマシュマロを落としてしまい、大騒ぎをしていた。アリーセとエルノフィーレ殿下はその様子を見て笑っている。
レナ殿下は一歩離れたところから、みんながマシュマロを炙る姿を優しい眼差しで眺めている。
私の視線に気付くと、にっこり微笑みかけてきた。
「ミシャ、私をクラブに誘ってくれてありがとう」
「何を言っているのよ。当たり前じゃない、友達なんだから」
そんな言葉を返すと、レナ殿下は笑みをさらに深めたのだった。




