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登校しよう

 朝食後、のんびり紅茶でも飲む時間があったらいいのだが、残念ながら登校しなければならない。


「今日は大荷物だな」

「お弁当――昼食を作ったの」

「わざわざどうして?」

「カフェテリアの食事は高いし、購買部のパンは争奪戦に参加しなければならないから、お弁当を作って食べたほうが楽だと思って」


 バスケットを二つも持っていたので、そんなにたくさん食べるのか? と聞かれてしまう。


「エアの分もあるの」

「面倒見がいいのだな」

「ええ、まあ」


 エアは友達で間違いないのだが、たまに彼のことを母親のような視線で見ているときがあるのだろう。なんだか放っておけないのだ。


「お弁当か。いいな。私も今度、寮の専属シェフに頼んでみよう」


 すごい。レナ殿下ともなれば、寮に専属のシェフがいるようだ。

 たぶん、健康管理や毒見の関係で、雇っているのだろう。

 さすが、王家が創立した魔法学校である。レナ殿下に対して、管理が行き届いていた。


「朝食に関しては、シェフや寮母にはなんて言っているの?」

「食欲がないと言って、寮を出てきている」


 なんでもここ最近、レナ殿下は胸の急成長を心配し、朝食はずっと食べていなかったようなので、誰も怪しんでいないようだ。


「お供の方々は?」

「撒いた」


 ここまでは寮の個室から直接、転移の魔法巻物を使ってやってきているようだ。


「私、もしもあなたに朝食を作っているってバレたら、打ち首とかにならないわよね」

「心配しないでほしい。そうなったら、命をかけてでも守るから」


 まるで、少女漫画のような胸キュン台詞だが、相手は男装の王太子である。

 どうしてこんなにかっこいいのか、疑問に思ってしまった。


 今日はお弁当があるので、ユニコーンに乗っての通学はご遠慮させてもらった。

 とてつもなく目立つので、さらなる反感を買ってしまうだろうし。


「では、歩いて行こうか」

「ええ」


 レナ殿下はバスケットを一つ持とうか? だなんて言ってくれたものの、王太子殿下に荷物持ちをさせるなんてとんでもない。

 丁重にお断りさせていただく。

 代わりに、ジェムが触手を伸ばし、二つのバスケットを運んでくれた。

 今日も取り巻き達が下駄箱で待ち構えているかも、と思ったが誰もいない。


「あれ? 今日はレナの取り巻……じゃなくて、お友達はいないのね」

「あんなの、友達でもなんでもない。私の正体を親から聞いて、媚びているだけの者達だ」

「う、うーーん」


 そうかも、とは言えなかった。

 なんでもレナ殿下は、しつこく付きまとう彼らに、「これ以上、ついて回るようであれば、絶交する!」と忠告したらしい。

 未来の国王陛下からの絶交宣言ほど、恐ろしいものはないだろう。


 教室に行くと、レナ殿下のもとへ押しかける人数がぐっと減っていた。

 近付けた者達は、レナ殿下の正体を知らないが、仲良くしたいと望む者達ばかりなのだろう。


 エアは今日も朝から予習に勤しんでいるようだった。


「おはよう、ミシャ」

「おはよう」


 お弁当を作ってきた、とジェムが持つお弁当を指し示す。

 すると、ジェムはお弁当を掲げ、誇らしげな様子でいた。


「やった! 楽しみ。ありがとうな」


 エアは感謝の気持ちを口にしながら、私に一冊のノートを差しだしてくる。


「これ、予習の写し。放課後までに返してくれたら、また明日もこれに予習したことを書いてくるから」

「え、いいの?」

「ああ」


 本当にありがたい、と思いながらノートを受け取る。


「昨日、一人で予習してみたけれど、内容が難しくて」

「そうなんだよ。俺も個人指導教師テューターがいなかったら、理解できなかったと思う」


 ノートを見てみると、昨日、一人では理解できなかったことが、スラスラ読み解けた。

 思わず、「読める、読めるぞ!」と言いたくなる。


 エアのおかげで授業もスムーズに受けることができて、ホッと胸をなで下ろした。

 そして待望のランチの時間だ。

 教室には誰もいなくなったので、ここでいただくことにした。

 魔法瓶という名の水筒には紅茶を淹れてきている。カップに注いでいただこう。

 お弁当を開いたエアは、「おーー!!」と歓声をあげていた。


「うまそう! これ、全部俺のなのか?」

「そうよ。たくさん召し上がれ」


 朝、食べてきたので味は保証できる。

 エアがもりもり食べる様子は、見ていて気持ちがいい。

 あっという間にペロリと完食してくれた。


「すっごくうまかった。ミシャは天才だ」

「お褒めにあずかり光栄だわ」


 やはり、お弁当があったほうがお昼休みはゆっくり過ごせる。

 明日からも頑張って作ろうと思った。

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