頼りになる人々
「ジルヴィードに会う前に、味方を増やしましょう」
「味方、ですか?」
いったい誰を味方に引き入れるのかと思っていたのだが、驚きの人物だった。
エルノフィーレ殿下は職員室に行くと、校長と理事でありヴィルの父親でもあるリンデンブルク大公に話があると言って時間を作ってもらえないかと事務の先生に頼み込む。
言葉を失っている間に面談室へと案内され、十分後に校長先生とリンデンブルク大公が揃ってやってきたのだ。
なんでも深刻な様子でエルノフィーレ殿下がやってきたと聞いて、駆けつけてくれたらしい。
エルノフィーレ殿下は私に向かって心配いらない、とばかりの視線を向けたあと、ジルヴィードとの間に起こしたトラブルについて報告した。
「まさかそのようなやりとりがあったとは……」
リンデンブルク大公は眉間に皺を寄せ、何か言いたげな表情を浮かべつつも、口はきつく結ばれていた。
「理事長先生、校長先生、私が浅はかな発言をしたばかりに、事を大きくしてしまって申し訳ありませんでした」
しょんぼりと落ち込む私に、校長先生は優しい言葉をかけてくれる。
「たしかに発言はいささか軽率だったけれど、国家間の問題に発展するようなものではないから、そこまで気にする必要はないよ」
学校内での問題は外に持ち出すべきでなく、学校内で解決すべきものだと校長先生は言ってくれる。その言葉を聞いて少しだけ気持ちが軽くなった。
「彼にはこちらから話をつけておくから」
校長先生の言葉にリンデンブルク大公も頷く。どうやらジルヴィードと直接会わずに解決へ導いてくれるらしい。
「その、校長先生や理事長先生の立場が悪くなったり、学校側にサーベルト大公家から圧力が入ったりしないのですか?」
そんな私の疑問にリンデンブルク大公が答えてくれた。
「あの者はこの国に止まるためにここで教師を続けなければならないという弱みがあるゆえ、その部分に付け入る隙があるだろう。学校からの追放をちらつかせたら、すぐに発言を撤回するに違いない。お前が気にすることではないから、大人しく待っておけ」
「は、はい、わかりました」
リンデンブルク大公は威圧感があって怖い印象しかないものの、味方だととてつもなく頼りになる。
その後、エルノフィーレ殿下はさらに話があると言って引き留め打ち明ける。
「ミシャはジルヴィードからなぜか目を付けられているようでして」
「それは困った話だ」
「ええ、そうなんです。それでわかりやすくミシャがわたくし側の人間だとわかるように、クラブを新設して入部していただこうと考えておりまして」
「なるほど、それも一つの手だね」
ただ、私は国王陛下の料理係もしているので、クラブ活動にまで手が回らないのではないか、と指摘される。
「国王陛下への料理作りというのは?」
エルノフィーレ殿下のその一言に、校長先生の表情が固まる。
レナ殿下にも内緒にしていることを言ってしまうなんて。
どう説明していいものか迷っていたら、リンデンブルク大公が助けてくれた。
「リンデンブルク大公家に嫁ぐための、特殊な花嫁修業だ」
「そうだったのですね」
セーーーーーーーーフ!!!!
リンデンブルク大公のとっさの機転により、我が国の秘密が隣国の王女殿下に知られてしまうことを防いだ。
そんな話を聞いたエルノフィーレ殿下は怪しむことなどなく、新たな提案をしてくれた。
「でしたら料理クラブとして発足するのはいかがでしょうか?」
普段、私がしている国王陛下への料理作りをクラブ化することにより、活動実績となって就職のさいに有利になるとエルノフィーレ殿下は提案する。
料理もクラブ舎で作って持って行くことも可能となるのだ。
「ふうむ、料理クラブか。いいかもしれないね」
ただ、正式なクラブとして発足するためには、部員が五名以上必要になるという。それ以下は同好会扱いとなり、趣味の活動にしかならないため、内申点に繋がらないようだ。
「エルノフィーレ殿下、エアやアリーセも誘ってみましょう」
「ええ、そうですね」
あと一人くらいだったら、クラスメイトに声をかけて回ったら興味を持つ者が現れるだろう。
「料理クラブが認められて、実績ができたら乗馬大会での出店許可が出せるよ」
なんでも馬術大会の当日はさまざまな出店が並ぶらしい。
前回、小舞踏会を開催したさいに食中毒が発生したので、今回は一級鑑定士を呼んで体に害がある食べ物かどうか調べてくれるようだ。
「保護者側からは食品販売に関して反対の声が上がったんだけれど、馬術大会の出店を生徒達は楽しみにしているからね」
乗馬大会で料理を販売するとか、絶対楽しいだろう。
活動するためには、まずは部員集めをしなければならない。
エルノフィーレ殿下と力を合わせて頑張らなければ。




